東京地検は「桜を見る会」夕食会費をめぐり、安倍前首相の秘書らを立件する方向だ。なぜ、このタイミングなのか。検察と官邸の利害が一致したからとの見方が出ている。 AERA 2020年12月14日号で掲載された記事を紹介。
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こんなに分かりやすいトカゲの尻尾切りがあるだろうか。安倍晋三前首相の後援会が、「桜を見る会」の前日に開催した夕食会の費用を補填(ほてん)していた問題だ。東京地検特捜部は、安倍氏の公設第1秘書であり、政治団体「安倍晋三後援会」の代表の男性と会計担当者の2人を立件する方向で検討に入った。容疑はこの前夜祭の開催に関し、開催費用の一部を安倍事務所が補填している事実を知りながら、収支報告書に計上しなかった政治資金規正法違反(不記載)である。捜査関係者はこう証言する。
「容疑の対象は、2016~19年の4年分の補填費用、およそ900万円だけでなく、そもそも参加者から徴収した会費そのものも含むと思われます。そうなれば不記載の合計は3千万円超となる。決定打となったのは、ホテル側が安倍前首相の資金管理団体『晋和会』宛てに発行していた領収書でした。そこには補填額を含む参加費用の全額が記してありました。今後の動きとしては年内にも2人を略式起訴し、正式裁判は開かずに罰金刑となる見込みです」
■安倍氏に聴取を要請
特捜部は安倍前首相本人に対し、任意の事情聴取を要請したとされ、安倍前首相も「全面的に捜査に協力する」としている。安倍前首相の関係者によると「収支報告書への不記載に関して、会計管理は全て事務所に任せており、安倍氏本人は事務所が補填している事実は知らなかった」と主張する模様だ。およそ1年にわたって国会を混乱させてきた「桜を見る会」の前夜祭をめぐる疑惑は、「悪かったのは秘書であり、私は何も知らない」という永田町のあしき伝統の論理で、このまま幕引きとなってしまうのだろうか。
興味深いのは、この「安倍前首相の事情聴取」の初報が、またしても読売新聞、そして、NHKによって報道されたという点だ。前首相の政治進退にも関わる情報のリーク元は「検察上層部」か「官邸」しかない。別の検察関係者は官邸と検察は「安倍からの脱却」で利害が一致しているとして、こう推測する。
「安倍政権の法の番人とまで言われた黒川弘務氏の失脚後、特捜部の動きは活発化しました。国民の信用を早く取り戻したい検察にとって『安倍からの脱却』が必須だからです。ただ、当然ですが菅政権の顔色もうかがわなければならない。そうするとこの不起訴のシナリオは、国民に対しては検察の執念をにおわせつつ、現政権へのダメージは極力抑える──という点で完璧です。しかも、臨時国会閉幕という絶妙なタイミング。検察のこうした動きに平仄(ひょうそく)を合わせて、官邸が読売、NHKにリークした可能性が高いと思います」
【「桜を見る会」前夜祭費用の検察捜査スクープは官邸が読売にリークか 安倍失職までの道筋は?】
しかし、本当にこれで終わらせてよいのだろうか。安倍前首相は国会で1年以上の長きにわたり嘘の答弁をし続けていたのだ。つまり、国家を預かる首相本人が、自分自身に降りかかった疑惑に関し、国会という場で公然と虚偽の答弁をしていたのだ。安倍前首相の周辺からは「コロナで大変な時にまだ桜か」と前首相を擁護する声もあった。
■古い因習続けていいか
だが、ある自民党関係者は、安倍前首相は会見を開き、自らの言葉で国民に説明する必要があると語る。
「良き秘書とは“親父(おやじ)”の窮地には率先して自らの首を差し出す、と言われますが、それは旧態然とした古い因習です。ただ、一国を預かる総理大臣の言葉は重い。安倍前首相は国会で『すべての発言に責任が伴う』と言っていたのだから、それを全うしてほしい」
安倍前首相は何らかの形で説明をするべきだ。国民への説明を避け続けるならば、「特捜部の捜査から逃げるために途中で政権を放り出したのでは」と国民からうがった見方をされても仕方がないだろう。(編集部・中原一歩)
※AERA 2020年12月14日号
【桜を見る会「疑惑の前夜祭」と同じ会場で出陣式開いた菅氏 安倍政権の「負の遺産」放置の姿勢鮮明に】
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