東大卒クイズ王としてクイズ番組に出演したり、登録者数175万人以上のYouTubeチャンネル「QuizKnock」の企画・出演をしたりと多方面で活躍する伊沢拓司さん。「AERA with Kids秋号」では、そんな伊沢さんにインタビュー。私立暁星小学校からクイズと出合った私立開成中学・高校時代の勉強、部活、親御さんとの関わりなどについて聞きました。
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小学校1年生の入学早々、クラスメートはほぼ全員ひらがなが書けて、僕だけ書けなかったのに衝撃を受けました。周りの子たちがひらがなの書き取りでは花まるをもらっている中、自分だけ二重丸だったのはあまりにも悔しくて泣きました。当時から負けず嫌いだった僕は、涙を見せるのも悔しくてほぼ人前では泣かなかったのですが、親にもしばらく言えないまま解決策がまったくわからなくて、泣くしかなかった。それを見た母親が硬筆の教室に連れていってくれたので、それが自分にとっての努力の原点かもしれません。思い返してみると、ありとあらゆることに対して負けず嫌いを発揮していたと思います。
クイズでは当然負けたくなくて、いろいろな記録を作るため特に中学生のころは誰よりも勉強していましたし、高校の委員会活動、文化祭の展示人気投票、塾内の成績、休み時間のラーメンの早食いに至るまでどうやったら勝てるかを考えながらやっていました。
でも、この中で「努力が楽しいから続けるぞ!」となったのは、聴きあさった音楽とクイズだけだったような気がします。
得意な科目は国語と社会 苦手だったのが算数
子どものころ、両親に読み聞かせをよくやってもらいました。絵本を読んでもらったり、児童書を読んでもらったり。自分で読めるようになってもちょっと長いものは読んでもらっていました。社会については、学習マンガで織田信長の伝記を読んだところからハマって、そこからはマンガと子ども向け伝記本が教科書代わりでした。当時は家にマンガがなかったので、もうマンガを読むということの面白さで歴史に入っていった感じでした。
結果として、国語は新しい本を読めるから好き、歴史はもう知っててテストで点数が取れるから好き、という感じ。とにかく楽しいところから始めて、リードを作ってしまった。これが大きかったんだと思います。
一方で、苦手な算数は手をつけないで放置する有り様でした。そもそも、僕は勉強が好きではなく、デキる自分が好きだった。だから算数はテストのときも開始から焦っていて、「自分は苦手だから人と同じようにやってちゃダメだ」と式を書かずに筆算を書き散らして解こうとする感じでした。式を書くとわかってないことをまざまざと自分自身に見せつけられちゃうから逃げてただけなんですけど……(笑い)。
中学受験をすると決めてからは、できなかった問題をできるようになるという地道なところから始めるために、母親が作ってくれたのが「復習ノート」でした。とはいえ、×がついている問題をコピーしてノートに貼り付けるだけのものなんですが、弱点を集めた自分だけのトレーニンググッズになるので、効果テキメン。そこに貼ってある問題を、スラスラ解けるようになるまで反復しました。なによりも、わからないことをわかるようにする、間違えても次間違えなければいい、みたいな勉強の基礎を学び取れたのが良かったですね。
受験勉強は焦らない 日々の成長を楽しむ
中学受験を振り返ると、子どもは日々学校や塾で戦い、疲れて家に帰ってくるはず。家はまず第一の休息場所として機能し、その上で採点では拾われなかった小さな努力を見つけて褒めてあげることがモチベーションにつながるはずです。自分も復習ノートを地道に作ってくれた母の努力だとか、その過程での「これはバツになってるけど、理解はしていそうだね」といった、塾では掘り起こされなかった努力の評価などがモチベーションになりました。焦らず、日々の少しずつの成長を楽しむことが、結局息切れしない受験生活につながるはずです。
中学でのクイズ研究部入部のきっかけはひょんなことで、部活動の勧誘会で本命の部活への入部を終え、時間が余ったのでクイズ研究部の体験会に参加したら意外と面白くて。
当時は部員も一桁で、みんな弱く、ちょっと運がいいと先輩にも勝てる部活でした。入った当初はゆるゆるな部活でしたが、先輩方が面白く、いつかあんなに面白いことをいっぱい知っている人になりたい、という思いで部活にのめり込んでいきました。中1の秋ごろから本格的にクイズの勉強を始めて、中3の頃には12時間くらいやっていましたね。
結局高2くらいまではそんな感じだったんですが、ひとつ下の学年にものすごく強い後輩がいて、直接対決して何度も負けていたので、それでモチベーションが低下して高2の秋に部活を引退。今思えばその後輩とバチバチに争えていたら、うまく受験勉強モードに切り替えられなかったかもしれません。当時はみじめさでいっぱいで、逃げるように受験勉強に入っていきましたけど……。
クイズのありのままの楽しさを伝えたい
ちなみに、クイズで学んだ知識はほとんど大学受験には役に立ちません。クイズのほうが、範囲が広いので。でも、クイズを続け、目標に向かう中で、自分に向いている努力の方法や、自分の性格についてより客観的に知ることができたのは大きな財産でした。部活全般に打ち込むことの価値はこういうところにもあるのかなと思います。
クイズと出合ってから15年経ちました。他に楽しいことをたくさん知ったし、たくさん試してきたけれど、なおのことクイズへの情熱は尽きません。
僕はクイズから「クイズは楽しい」という体験をもらいました。他のなにかに役に立ってほしいなんて高望みはしません。クイズがクイズである、これだけで幸せです。そのことに感謝して、多くの人たちにクイズのありのままの楽しさ、学びを楽しむことを伝えていきたいです。
いざわ・たくし
1994年生まれ。埼玉県出身。私立暁星小学校、私立開成中学校・高等学校を経て東京大学経済学部卒業。クイズ番組のクイズプレーヤーや情報番組のコメンテーターとして活躍中。16年に立ち上げたWebメディア「QuizKnock」で編集長を務めた。19年に株式会社QuizKnockを設立。社長に就任。自身の経験をいかした勉強法のアドバイスや講演なども行う。著書多数。最新刊に『クイズ思考の解体』(朝日新聞出版)
(取材・文/AERA with Kids編集部)
【「クイズの本質とはマジックではなく思考の道筋」 東大生ブームの牽引者、伊沢拓司のジレンマ】
※AERA with Kids2021年秋号より
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