* * *
――早押しから難問まで、鮮やかに正解を導き出す姿に爽快感を覚えた人も多いはずだ。
伊沢:最初に本格的にクイズに触れたのは、中学1年のときでした。勧誘されてクイズ研究部に入ったんです。僕が入学した開成学園は中高一貫校だったので、高2の先輩とかといっしょに活動していたんですけど、小学校を出たての自分にとっては、高校生はすごく大人に見えました。とてもフレンドリーに接してくれて、それがかっこよかったんです。「あそこのボウリング場が安いよ」とか「カラオケにいくならこの店がいい」とか、勉強以外のことをたくさん教えてくれました。
■楽しく過ごすツール
――長年にわたり東大合格者数日本一を誇る開成学園だが、意外なことに当時のクイズ研究部は、少人数の弱小チームだった。
伊沢:だからなのか、クイズ初心者の僕でも先輩に勝てることが多かった(笑)。勝つと「伊沢すごいじゃん!」とほめてくれるんですよ。「もっと勝てるようになりたい!」と、どんどんクイズにのめり込んでいきました。
伊沢:僕は“商業的に良いクイズ”には、三つの視点が大切だと考えています。
――ではなぜ、そんな当たり前の行為が、「クイズ」という一種の競技、観客を熱狂させるエンターテインメントショーになり得たのか。
■問う側と答える側
伊沢:自己完結できる音楽や文学とは異なり、クイズは必ず「問う側」と「答える側」の2者が必要になります。そのため、クイズが広く親しまれるには、一つの問いを一度に多くの人に届けられる拡声器としてのメディア、特にテレビの登場を待たなければならなかったというのが、僕の考えです。
――自身も、2017年にクイズ番組「東大王」で優勝したのを機に表舞台に立ち、近年のクイズ番組ブームを牽引してきた一人だ。
■過程こそ見てほしい
伊沢:クイズや東大生が注目されることはありがたいです。ただ、学歴や肩書ばかりがもてはやされる傾向は、正直違和感がありました。
――著書の中では、伊沢自身が東大生ブームの立役者として活動してきたことに、もどかしい思いを抱えていたことも率直に綴られている。
伊沢:本当は、「過程」をみてほしいんです。マジック(学歴を用いた演出)ではなく、ロジック(答えに至るまでの思考の道筋)にこそ、クイズの本質が詰まっていますから。
――それを証明するため、自著ではクイズの問題を25の「構文」に分類し、プレーヤーが解答に至るまでの思考の軌跡を余すことなく記述した。
伊沢:これが理解されれば、勉強するステップにも面白さを見いだせるようになると思うんです。たとえば、論文の結論だけを取り出して何かを語るのではなく、数回に分けていちから論文を読破するような学びが受け入れられるようになるかもしれません。過程をエンターテインメントとして楽しめるコンテンツを増やしていくことが今後の目標です。
■学ぶ面白さ伝えたい
――自身が企画・出演するYouTubeチャンネル「QuizKnock」でも、学びの過程をエンタメ化する取り組みを既に始めている。
伊沢:今はクイズ企画のほかに、1時間一緒に勉強するだけのライブ配信を週2回やっています。学習目標の立て方も伝えながらなので、地味でもゆっくり学ぶことの面白さが伝わればいいなあという気持ちです。
――数多くのクイズ番組に出演するにつれ、多くの人から博識ぶりを称えられるようになった。だが、クイズに深く向き合うほど「知っていることの曖昧さ」を痛感するという。
伊沢:たとえば、僕が企業にロケにいって、その会社の秘密をクイズとして出題される番組があるのですが、最初は全然わからないんです。でも、出題されたシチュエーションや質問を通して、なんとなく答えが見えてくる。だから、「知識はないけど、わかる」んですね。一方で、わかったと思っても、当たっていないこともある。だから「わかることと、正解すること」も違う。そう考えると、「ものを知っているかどうか」なんて、自分でもわからないものですね。
――これからも、数多の問いと向き合う日々が続いていく。
(ライター・澤田憲)
■伊沢さんが選ぶ歴史的名クイズ
【いま最もアツいクイズ】
「謎解き」全般
【早押しクイズの象徴でありミーム】
Q アマゾン川で年に一度、河口から上流に向け、流れが逆流することを?
A ポロロッカ
「第6回史上最強のクイズ王決定戦」から。クイズ王・西村顕治の伝説的な早押しが発揮された一問であり、早押しクイズの象徴的存在、ミームにもなった一問。早押しクイズとはなにか、というパブリックイメージは、少なからずこの一問に端を発するように思う。テレビクイズを代表する一問。
【クイズ出してよと言われたら】
Q 毎月22日は「ショートケーキの日」と定められています。なぜでしょう?
ヒント:ショートケーキにはいちごがのっていますよね?
A カレンダーで22日の上には15(いちご)日があるから。
【クイズ王・伊沢拓司「正解できないことが好き」 QuizKnockメンバーが語る意外な”特訓法” 】
※AERA 2021年11月1日号