再発令された緊急事態宣言により、対象地域の飲食店に出された時短要請。応じなければ、罰金という案も浮上している。飲食店や常連客からは嘆きや怒りの声が聞こえてくる。AERA 2021年1月25日号で掲載された記事から。
* * *
「怒りを超えて、あきれるしかないですよ。怒るのも無駄なので、店の営業のことだけを考えています」
1月13日、東京・新宿の「思い出横丁」で時短営業をする居酒屋の男性従業員はこうはき出した。前日の12日、新型コロナウイルス対策を担う西村康稔経済再生担当相が記者会見で、「昼に皆とご飯を食べていいということではない」と強調したことについてだ。
東京都など緊急事態宣言下にある地域では酒類の提供を午後7時まで、店の営業は午後8時までと要請されている。1日最大6万円の協力金の効果のほどは事業者ごとに違いがあるが、経営難に陥る事業者も多い。西村大臣の発言は、怒りの気力さえ失わせるものだったようだ。
■罰金の議論に怒りの声
戦後の闇市から発展した思い出横丁には、約90店舗がひしめきあう。昭和の雰囲気を漂わせて昼も夜も客が狭い店内で肩を寄せるようにして飲食を楽しんでいたが、今は営業自体を断念する店もある。シャッターが閉まる横丁を歩けば、あちこちに貼り紙が貼られていた。
「緊急事態宣言が解除されましたら必ずお会いしましょう」
「お客様並びに従業員を感染の危機から守るためにも、営業自体を自粛します」
今回の緊急事態宣言では、感染対策の主戦場として飲食店が名指しされている。時短要請に応じなければ50万円以下の過料を科す案まで浮上する。
「感染を広げた政治の責任を棚上げにして、従わない店から罰金まで取ろうなんて、筋が通っているとは思えません」
冒頭の居酒屋の常連客だという男性(65)はこうまくしたて、60代の店のスタッフの女性もこう続けた。
「ただでさえアルバイトの時間が減って収入が落ちています。店が潰れたら、もう年がいってるから他に働く場所を見つけることもできないでしょう」
混乱の飲食業界から逃げ出す動きを支援するサービスも始まった。転職の支援サービスを提供するHeaR(ひあうコール本社・東京都)は昨年12月、飲食業から他の職種に転職するためのサービスをスタートさせた。
厚生労働省によると、新型コロナの影響で解雇や雇い止めにあった飲食業界の労働者は見込みも含めて1万人を超えた。同社がこの事業を始めたのは、代表取締役CEOの大上諒さん(27)が、コロナ禍によって飲食業界での雇用情勢が厳しくなっていることを身近に感じる機会があったからだ。
「業界全体が厳しい状況に直面していることから、業界内の転職が難しいと考えました。異業種への転職もハードルは高いですが、多くの人が飲食業界から出ざるを得ないと予想されることから、彼らに役立つことができないかと考えました」
サービスの費用は約30万円からと安くはないが、3カ月程度のトレーニング期間を通じて支援に取り組む。「利用者も増えている」(大上さん)という。
(編集部・小田健司)
※AERA 2021年1月25日号より抜粋
【「このままでは死んでしまう」 コロナ禍で迎えた正月 大人食堂に来たホームレス男性】
外部リンク