「まさか、正月を路上で過ごすとは……」
1月1日、東京都千代田区の聖イグナチオ教会で開かれた「年越し大人食堂」。食事配布の列に並んでいた男性(51)は、重い表情で語った。
都内で10年近く飲食店を経営していたが、コロナ禍でお客が激減。家賃を滞納するようになり6月に店を閉じた。やがて住まいの家賃も払えなくなり、貯金が底をつき、9月に路上に出た。
いま一番困っているのは、寝る場所と食事だという。公園で寝泊まりしているが、厳しい寒さの中、命の危険すら感じる。食事はここしばらく1日1食しか食べていない。生活保護の申請を考えているという男性は、ぽつりとこぼした。
「もう限界。このままでは死んでしまう」
大人食堂を開催したのは、労働・貧困問題に取り組む約40の支援団体でつくる「新型コロナ災害緊急アクション」。公的機関の窓口が縮小される年末年始、新型コロナウイルスの影響で仕事と住まいを失った人たちを支援につなぐことを目的に開催した。手作りの食事提供と生活・労働・医療、そして宿泊相談を開く。この日、正午から行われた約200食分の食事の提供には、開始前から80人近い列ができた。
事務局長の瀬戸大作さんは言う。
「住む家がない、所持金がない、体調が悪いという人が多い。自分の力だけではどうしようもできない人たちばかり。継続した支援が必要だ」
雇用をめぐる環境は悪化の一途をたどっている。厚生労働省によれば、コロナ禍が引き金になった解雇や雇い止めは12月25日現在で7万9522人(見込みを含む)。9月に6万人を超えて以降、増加のペースはやや緩んだが、12月に入り増加は拡大傾向にある。職種別では製造業が1万6717人と最多で、飲食業1万1021人、小売業1万399人と続き、上位3業種で約半数を占める。
イベント関係で仕事をしていた男性(56)も、コロナで職を失った。コロナ禍でイベントがなくなり会社の経営が悪化し、4月に解雇を言い渡された。住む場所もなくし、知り合いの家を転々としてきたがいつまでも頼れない。所持金は1千円を切り、ホームレスが頭をよぎるようになった。この日は住まいの相談が目的で来て、都が一時宿泊先として確保したビジネスホテルに泊まれることになった。男性は、ほっとした表情で話す。
「ゆっくり寝られる場所があるのは本当にうれしい」
子どもを連れた女性の姿もあった。
3歳の娘と一緒に来た女性(34)は、コロナ禍で夫の収入が減り、自身もアルバイトを減らされ家計が悪化。娘を認可外保育園に預けているが、保育料が払えなくなってきている。両親は高齢なので頼れないという。
「娘の衣料品をもらえないか聞いてみたいです」(女性)
コロナが生んだ「ひずみ」は、長くホームレスをしている人の暮らしにも影を落とす。
新宿で3年近くホームレスをしている男性(57)が取材に応じた。
6年ほど前に体を壊し、勤めていた会社を退職。治療費で貯金を使い果たし、ホームレスになった。以来、日雇いの仕事で細々と現金を得ていたが、コロナ禍で日雇いの仕事も減り、収入はほぼなくなった。今日は体がだるくて、医療相談を受けると言う。
「何とか生きられるだけの仕事をしてきたけど、コロナですべてが変わった。もう、生きているのもつらい」
コロナによって、多くの人がこれまでの日常を奪われた。感染拡大は収まる兆しが見えない中、さらなる生活困窮者の増加が懸念される。
同アクションの支援団体の一つ「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さん(51)は、行政の貧困対策強化を訴える。
「生活保護の利用には、まだまだ心理的ハードルが高く誤解も多い。生活保護は誰でも利用できる制度ということを、国はもっと広報してほしい。雇用の回復が見えない中、住宅支援も重要だ」
年越し大人食堂は、1月3日も同教会で開催(12~18時)された。他にも、年始に行っている各地の民間団体の支援情報や一部自治体の臨時窓口情報が、厚労省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15468.html)に掲載されている。
(文/野村昌二)
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