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【2021.3.25 ショート後】
――この曲だからこそ生まれるフィギュアスケートとは。
僕自身、すごくこの曲を感じ取りながら、そして、その曲が持つエナジーだったり、そういったものを、腕だったり、スケートだったり、ジャンプだったり、体全体に行き渡らせて表現してるので、それがやっぱりこのプログラムの魅力かなって、すごく思っています。あとはまた、振り付け一つ一つに、今回はお客さんがいないので、なかなかコネクトすることは難しいですけれども、一つ一つに、お客さんとつながるような振りが多くあるので、それもまた、このプログラムの魅力だなというふうに思います。
――初日の公開練習のあとに言っていた「いろいろ思うことがあって」はどういう思いでしたか。その思いは日本に置いてきましたか。
その気持ちは持ち込んでここに来てると、自分は思っています。全日本のときから、じゃあ変わったかっていわれたら、まああんまり変わってないかなっていう気もしなくはないですし、実際、まあ自分の故郷であるっていうか、自分が住んでいる、その仙台とか宮城では、今すごく感染者が増えている状況なので、すごい心配はしています。
ただ、ここの現地に来て、やっぱりスケートを滑るからには、きょうみたいな演技だったり、またあした、あさってか、フリーだったり、エキシビがあればなんですけど、エキシビションとかでも、その、何かしら、僕がここの世界選手権で、この地で滑った意味っていうものを見いだしたいなというふうには思ってます。もちろん、みなさんが見てくださって、何かしら感じてくださることは、すごくうれしいですし、そういうものにしたいなという気持ちもあるんですけど、最終的に僕自身が、ここで滑った意味を感じられるような演技を目指して頑張りたいなというふうにも思っています。
――全日本後、一人で練習して、大変な思いをいろいろしましたか。
まず、また全日本並みに、全日本の前並みにへこんだこともあったり、また調子の波が、わーって崩れてったりとか、自分が目標としていたものに届かなかったりもしていたんで、結構つらい気持ちもありました。また、来る直前にも、また2月にも地震があって、結構家の中とかもグジャグジャになってはいたんで、気持ちの上でのつらいところも、ちょっとありました。
ただ、まあ実際健康で、こうやって、この現地に来られてますし、まあ元気にこのプログラムも滑れたと思ってるんで。まあ大変だったなとは思ってますけれども、まあその日々があったからこその今なのかなっていうふうにも思っています。
――一番へこんだのは何ですか?
いや、結構アクセル、4回転半を力を入れてやっていたので、まあ跳びきれなかったのが、やっぱり、一番つらかったなというふうには思ってますけれども。まあでも、それのおかげで筋力ついたりとか、またトレーニングの方法についても、また新たに考えることがいろいろあったので、ある意味では、全日本前よりもステップアップしてるのかなというふうに思います。
――練習に器械体操や陸上の理論も取り入れたという話がありました。
随分前の話なんですけれども、内村(航平)さん、体操の内村さんとか、あとは白井(健三)さんとお話しさせていただいたときに、たまにそのフィギュアのジャンプの回転の仕方だったり、そういったものを参考にしているという話を聞いていたので、まあ今回、内村さんがH難度のものを決めているっていうことも刺激になったりもしていたので、何となく、何か内村さんのドキュメントだったりとか、そういったものを見ながら、ああ、こういう感覚なのかなとか、ああいう感覚なのかなとか、まあ自分にとって、今、その4回転半というものが、かなりの大きな壁なので、それに対して、どうやって回転数を増やしていくのかとか、どうやってジャンプの高さだったりとか、滞空時間だったりとか、そういったものを延ばしていくのかっていうことを考えたりもしていました。
あとは、そうですね、陸上での、ウェートとかはしていないんですけれども、どうやって、その陸上の力だったり、または自分のポテンシャルというものを出していけるかっていうことについても、いろいろ考えたりすることがありました。
――体になじんだ感覚は?
そうですね。4回転半に関しても、すごく近づいてきたなという感じもしますし。それのおかげでいろんなものが安定してきたり、自分の自信になったりとかもしているので、まあよかったとは思っています。
――どういうふうに体を鍛え、どんなメニューをしたとか、26歳の鍛え方を教えてください。
別にウェートをやっているわけじゃなくて、やっているうちに、だんだん必要な筋肉がついてきたというか。まあいろんな、遠心力だったり、慣性だったり、そういったものを、何か取り込むための筋肉が、ちょっとついてきたなというふうには思っています。
――練習を通して鍛えている?
そうですね。何か特別にトレーニング、筋肉を向上させるトレーニングっていうことはやってないです。ただ、やっぱり4回転半をやるにあたって、最初のころは、かなり筋肉痛とかを伴っていたんですけれども、まあそれもなくなりましたし、実際、そのショート、フリーを通して、ほかのジャンプも、すごくリラックスして跳べるようになったかなというふうに思っています。
――体重の増減は?
体重は増えてます、はい。
――これ、あの、今何キロって、聞いてもいいんですか。
嫌です(笑)。
――すいません。フリーの「天と地と」。大河ドラマで主演した石坂浩二さんが「謙信の心を胸に翔んでほしい」とエールを送っています。
謙信公っていう、僕らは文献でしか、文献や巻物だったりそういったものでしか、実際には見たことがない方ですけれども、ただ、石坂浩二さんの中にも、その謙信の魂だったり、心があったと思いますし、僕自身も、そういった心だったり魂だったり、何か謙信公が見ていた風景だとか、記憶だとか、そういったものを少しでも感じながら滑ることができたらいいなというふうに思います。
――全日本では「春よ、来い」などのプログラムを滑ることで、気持ちを持ち直したというお話でした。今回は何で戻してきたんでしょうか。
えっと、特に何もきっかけはなかったですね。本当に、何ですかね、もう気持ちを盛り返して、何とか這いつくばってやってきたっていう感じに近いと思います。
まあ自分としては4回転半を、この試合に入れたかったっていうのが本当の気持ちで、かなりギリギリまで粘って練習はしていたんですけれども、最終的に入れることはできなかったんで、ちょっと残念だなという気持ちと、あとは、全日本よりもさらに過酷な戦いの場なので、そういった意味でも、練習中、不安が襲ってきたりとか、そういったこともあって、大変だったとは思います。
ただ、あの苦しかった日々があったからこその、まあきょうの、まあ出来だったと思いますし、また、今のアップの考え方だったり、ジャンプの考え方だったり、スケートへの考え方だったりしていると思うので、それを大事に、あのときの自分に、よく頑張ったねって言えるような演技を、明日また目指したいなと思います。明日? 明後日か。明後日、目指したいと思います。
――アクセルを今回入れないと決断したのは、いつごろなんですか。
えっと出発の3日前ぐらいです。
【フリー後】
――振り返って、いかがでしたか。
まあ、うーんと、すごい疲れました。まあすごく、何ですかね、自分のバランスが、一個ずつ崩れていってたので、なるべく転倒しないようにっていうふうに頑張れたとは思ってるんですけど。でも、本当に一つ一つ、全然自分の、自分らしくないジャンプが続いたので、非常に大変だったなというふうには思います。
――次の試合に向けての課題は?
とりあえず、次の試合がどうなるかわからないんですけれども、ただ、まあ時間があるのであれば、4回転半を、早く練習して、まずは着氷させて、完成度を上げて、試合に組み込めるようにしたいなっていうのが、とりあえず今の目標です。
――今日の3回転アクセルは4回転アクセルの練習の影響がありましたか。最初の4回転ループをミスしたら何かが崩れていきましたか。
そうですね。全体的に感覚は悪くなかったので、まあ練習であまりこういうパターンは出なかったんですけど、そうですね、何か一気にバランスがどんどん崩れてったなっていう感じは、自分の中ではしました。
で、まあアクセルに関しては、まあもちろん4回転半やってるっていうのもあるんですけど、うーん。まあ、それよりも何か、そのさっき言った、バランスがどんどん崩れていってる状態の中で、何かうまく、そうですね、自分の平衡感覚っていうか、最後まで、軸を、何かうまく取り切れてなかったのかなっていう感じはしてます。
ただ何か、あんまり大きな問題だったとは思ってなくて。ほんのちょっとずつ、崩れていってただけなので、まあトレーニングで頑張ってきたことだったりとか、あとは練習で注意してきたことだったりとか、そういったものはできたと思ってます。
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※AERA 2021年4月12日号より抜粋