そのラジオを聞き始めたのは、とても面白い知り合いの女性が、とても面白いと言っていたからだ。3年経って気づいたのだが、聞いていてイラッとしたことが、ただの一度もない。それって、すごいことだと思う。明るくて、まっすぐで、自分を偽らない。そういう人だから今日も又、私は「たまちゃん」のラジオを聞くのである。
【語り手の感情を引き出し、言語化していく 久保田智子】
2019年12月10日午前11時過ぎ、地下鉄赤坂駅の改札口を出ると、すごいことになっていた。赤坂サカスへ通じる広い階段いっぱいに人、サカスの敷地も人、人、人。白髪の男性、ベビーカーのお母さん……老若男女であふれていた。
その頃、TBSラジオの一角は、慌ただしく動いていた。窓から見える長蛇の列。足りなくなることが、確実だった。「たまむすびすごろく」、2千枚しか用意していなかった。って、何?
月曜から木曜まで赤江珠緒(45)がパーソナリティーを務めるラジオ番組「たまむすび」のすごろくだ。12年4月2日にスタートした同番組は、この日が2千回目の放送。記念に、楽しく歴史を振り返る「たまむすびすごろく」を作った。放送2千回当日の正午から無料で配ります、記念のクリアファイルも売るので、よかったら買ってください。そう番組で告知したところ、最終的に約3500人もの人が集まった。
なぜこれほど人気なのか。という話の前に、まずは「赤江珠緒の基礎知識」から。
ラジオよりテレビの赤江を知っている。そういう方も多いだろう。テレビ朝日系の朝のワイドショーの司会を、赤江は通算11年務めている。
スタートは03年6月、番組名は「スーパーモーニング」だった。テレビ朝日の女性アナウンサーがスキャンダルで急遽降板、大阪・朝日放送(ABC)の社員だった赤江に白羽の矢が立った。同番組のメインコメンテーター・鳥越俊太郎とABCの番組で司会をし、テレビ朝日プロデューサーの目に留まった。抜擢の理由は、「スキャンダルに無縁そう」。関係者の多くがそう語っている。
そんな赤江だが、テレビ朝日着任直後、「1週間、毎日違うルートで家に帰ってくれ」と命じられ戸惑ったという。前任者の週刊誌報道があってのことだが、実際マンションのインターホンに謎の女性が接触をしてきた。翌日、「何だったんでしょうね」と鳥越に話したら、「それは週刊誌の記者だよ」と言われ、「そんな扱い、大阪では全くなかったですから、えーーってなりました」。
ABCでは「タレントではなく、社員」と繰り返し教育された。だから、「そうか、東京では、女性アナウンサーはタレントさんの枠に近い感じなんだ」と思ったという。
3年近く経ち、赤江は番組を離れて大阪に戻る。社風があまりに違い、戻りたくなったそうだ。どんな違いかと尋ねると、戻って半年後に「サンデープロジェクト」の司会をした話になった。
土曜日にABCで情報番組「おはよう朝日です」に出演、打ち合わせ後に東京へ。その足でテレビ朝日に行き、田原総一朗率いる「サンデープロジェクト」の打ち合わせ。翌日、本番。「他愛もない会議」から「大学の講義」。「ひらがなの議事録」から「漢字の議事録」。「笑いがとれたらオッケーなところがある」ABCと「やはり真面目で堅い」テレビ朝日のギャップに、頭がパニックになりそうだったと振り返る。が、それだけではなかった。(文中敬称略)
(文/矢部万紀子)
※AERA 2020年3月2日号「現代の肖像」から抜粋
【「8割おじさん」のはち切れそうなシャツから妻が感じたサイン 西浦博】
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