新学期がスタートし、コロナに関するいじめや差別が増えている。一体、なぜ。大切なのは、親の「応答力」と「共感力」だ。AERA 2020年9月21日号は、親にできるいじめ防止策を専門家に聞いた。
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ストレス因子が増えるといじめが増えることは知られているが、学校が再開したこの時期、いじめが増えるのはなぜか。
発達心理が専門の法政大学の渡辺弥生教授は、時間を見通す「時間的展望」「対人関係」、自分自身を客観視する能力「メタ認知」の発達──この三つの側面から理由が考えられるという。
まず、時間的展望では、子どもは年齢とともに過去を振り返ったり未来を考えたりする力が発達するが、コロナはいつ収束するか予測が不可能で不安。この状況が永遠に続きそうに思い、ストレスが大きくなる。次に、コロナ禍では互いに距離を取らなければならず、対人関係が希薄に。そのため、悲しかったり孤独を感じたりと気持ちが落ち込みやすい状況に置かれる。
コロナ禍では、適切な情報は対面ではなくオンライン中心に得ることが多く、偏りがちになってしまう。噂やSNSなどに振り回されるなど、自分を客観的に見ること(メタ認知)が難しく、互いに誤解したり疑心暗鬼になったりしやすいという。
「子どもたちは不安や心配、恐れなどネガティブな感情で気持ちがささくれだってしまいやすい時期だと言えます。すると、自分の気持ちを調整することができず、つい相手にいじわるなことを言ったり、逆に、傷つけられるのが怖くて、自己防衛で相手を傷つけてしまったりする可能性もあります」(渡辺教授)
■コロナは秘密にしたい
コロナ禍で子どもたちが心に受けた影響の一端が、国立成育医療研究センター(東京都)が行った「コロナ×こどもアンケート」で明らかになった。
調査は6~7月、インターネットで実施。全国の7~17歳の子ども981人と、17歳以下の子どもを持つ保護者5791人が回答。9月14日号特集でもこの調査を取り上げ、7割の子どもが何らかのストレスを抱えていることなどを紹介した。また、自分や家族が感染した場合の意識を尋ねた質問では、子どもの32%が「秘密にしたい」などと回答した。
アンケート結果を見た渡辺教授はこう言う。
「情動感染という言葉がありますが、感情のイライラは家庭内で伝染します。子どもの場合、年齢によっても違いますが、親が不安に思っていたり、不用意にネガティブなことを口にしたりしていると、不安が増し、文脈がわからないまま親の言葉を鵜呑みにしてしまいます」
どうしたらいじめや差別をなくせるか。渡辺教授は、学校での教育はもちろんだが、傷ついた気持ちを癒やしてエネルギーを充電するには、家庭での親の役割が重要だと話す。
渡辺教授は「いじめが起きないために親にできる3カ条」を挙げる。中でも「親は『応答力』と『共感力』を忘れない」ことが大切と説く。
「親は心配のあまり、つい、わが子がいじめをしたと知ると、頭ごなしに『なんでいじめたの』と怒って詰め寄りがち。すると、子どもの気持ちは余計にイガイガします。まずは耳を傾け、『そうだね』と応答して、『つい、いじわるなこと言っちゃったんだ』と共感する。受け止めてもらえると子どもは不安が減り、落ち着きを取り戻し、感情を整理することができるようになります」
同様に、子どもがいじめに遭ったと知った時も、「応答力」と「共感力」が重要と言う。
「例えば、いじめられて『何で言い返さなかったの』と言うと、子どもは親から責められたように感じ、親には次から言わなくなります。まず『そうだったの、嫌な目にあったね』と応答し共感します。その上で、具体的にどう対応するか子どもの様子をよく見て、一緒に考えましょう。親に理解してもらえた安心感から、子どもは傷ついた感情を癒やし、乗り越えることができます」(渡辺教授)
■人形劇の動画で対策
学校でも独自の「いじめ対策」に取り組むところが出ている。
滋賀県草津市の老上(おいかみ)小学校では、学校が再開した6月1日朝、教員が手づくりした人形劇の動画を全クラスに視聴させた。
動画は約2分40秒。マスクをつけたぬいぐるみ同士が、「熱が出て休んで『コロナじゃない?』って言われたら本当嫌だよ」などと会話を交わす。
動画は同小ホームページでも閲覧できるが、動画を見た子どもたちからは「差別はよくない」「相手のことを思う気持ちが大切」という声が上がったという。中心になって動画をつくった、同校の佐々木栄教諭はこう話す。
「休校の間に、子どもたちはコロナに敏感になり不安を感じていると思いました。そこで、先生たちはみんなのことをすごく大事に思っているので、つらいことは何でも相談してほしいという思いを動画に込めました」
そばに信頼できる大人がいる。子どもにとって、それが何より大切だ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年9月21日号より抜粋
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