誰が言ったか、「夏を制する者は、受験を制する」。新型コロナの影響が残る中、受験生や保護者は大切なシーズンに突入した。問われるのは、在学中にいかに成長できる力をつけられるか、だ。AERA 2020年8月31日号は「現役進学力」を特集。その中からここでは難関国立大のランキングを網羅した。大学「進学力」がわかれば、学校の真価が見えてくる。
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東京・渋谷のランドマークのひとつ、宮下公園。年内開催には至らなかったが東京五輪2020に向けて、数年前から複合商業施設としてのリニューアルが進んでいた。新型コロナウイルスの影響がなければ今ごろ観光客でごった返したであろうこの渋谷のど真ん中の場所から歩いて数分のところに、進学校として注目される学校がある。
渋谷教育学園渋谷中学高等学校。通称、「渋渋(しぶしぶ)」だ。
私立の中高一貫校である同校は、2020年春に卒業した232人のうち、現役で早稲田大と慶應大へそれぞれ28人が進学。多くの生徒たちを難関私大に送り出している。
■東大にも強い「渋渋」
だが、実力は早慶への実績だけではない。東京大には現役で18年に19人、19年には10人とコンスタントに輩出。そして今年は27人が東大に進学した。同校進路部長の高橋正忠さん(42)は、こう言う。
「20年卒生は東大志望が85人と例年より多く、東大に染まった年でした。生徒の間でも、自然と空気感が高まったのかなと思います」
同校の現役での大学進学率は72.6%(20年)。都内でも屈指の「難関大に強い学校」として知られるようになった。
文部科学省「学校基本調査」(19年)によれば、現役での大学進学率(短大含む)は、全国で54.7%。特に女子の比率が、じわりじわりと上がり続けている。高校側も各校のホームページで、こぞって大学合格者数を掲示する。合格者のボリュームゾーンから、その高校がどの大学をターゲットにしているのかなどがわかる。
しかし、注意も必要だ。私立大の場合は、優秀な生徒が複数の学部や学科に合格する「のべ合格者数」で掲載される場合もあるからだ。加えて、卒業生の数が多ければ、合格者数も多く出る可能性がある。もちろん進学先や学校の実力を測るのに合格者数は参考になるが、進学の実態を正確に表していない場合もある。たくさん受かっても、進む大学は一つだけだ。
アエラでは、こうした各高校の「真」の実力を明らかにするために、大学通信の協力を得て、難関大学への現役進学率を算出した。旧帝大(東京・京都・北海道・東北・名古屋・大阪・九州)・早稲田・慶應義塾・上智・東京理科・MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)・関関同立(関西・関西学院・同志社・立命館)の人気20大学への進学者数を徹底調査(20年卒)。卒業生数と現役で実際に進学した人数から各大学への「現役進学率」を割り出し、ランキングにした。
■開成の上を行く筑駒
たとえば、東大を見てほしい。
合格者数39年連続1位の絶対王者、開成からは今年117人が東大に現役進学した。「東大といえば開成」と思い浮かべる人も多いはずだが、現役進学率で並べると29.5%で3位。王者の上を行くのが、筑波大附駒場や桜蔭だ。
こと筑駒の東大現役進学率は44.7%。およそ2人に1人が東大に進むという驚愕の実績を残しているのがわかる。開成もおよそ3人に1人が進学する極めてハイレベルな争いだが、現役進学率で並べると、一般的な合格者数ランキングとは異なる「実力」が浮き彫りになる。
また、現役での進学率なので、浪人生の実績は含まれない。浪人してから成績をぐんと上げる生徒も珍しくないが、このランキングでは、各学校の現役での進学力がずばりわかる。
さらに、東大と京都大、慶應義塾大や東京理科大などを中心にずらりと並ぶ「中高一貫校」にも注目したい。大学通信の安田賢治常務は、こう分析する。
「中学の段階でいかに優秀な子を集められるか、その傾向が年々高まっています。日比谷のように高校からでも優秀な学校はありますが、卒業生が多いこともあり、ランキングには入ってきません」
中高一貫校がブームになって久しい。いまでは私立だけでなく公立の中高一貫校も年を追うごとに増えている。大手予備校講師で、共著『早慶MARCHに入れる中学・高校』(朝日新書)などがある武川晋也さんは、こう指摘する。
「筑駒は文化祭などの行事もやりきって、それでいて受験でも結果を出す学校です。そもそも、中学・高校入試で受かっている子のレベルが段違いなんです」
■点数至上主義になるな
冒頭の渋谷教育学園渋谷も、中高一貫だ。同校が進路指導で意識するのは「大学はあくまでも手段でしかない」ということ。毎年10人以上の生徒が海外大を志望し、米ハーバード大やプリンストン大に進む生徒もいる。すると、東大も自然と相対化され、目的に向かって受験勉強に励む環境が育まれる。
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だが、悩みもある。
「点数至上主義になるな」
同校の教室では、そんな言葉がたびたび飛び出す。
高橋進路部長が言う。
「中学受験をする生徒の多くは小学生の頃から塾に通っています。成績順以外に自分をはかる尺度がない子もいるんです」
生徒の偏った価値観をリセットするのも教師の役目。成績は伸びしろをはかるツールであるという考え方を口酸っぱく言い聞かせる。なかなか考え方が切り替えられなかった生徒も、「中2に上がる前には落ち着いてくる」と高橋部長。
■「校長講話」が大学選びに影響
同校が重視するのは、1996年の創立以来続けている「校長講話」の時間だ。6年間のシラバスに組み込まれ、卒業までに全30回で設計され、整理整頓の大切さや自由、自己実現まで幅広いテーマを説いていく。一見、受験には無関係に思えるが、高橋部長は首を横に振る。
「校長講話では、人生をどう作っていくのかといったことを話します。6年を通して自分の将来をイメージすることになるので、大学選びにも大きく影響するのです」
(編集部・福井しほ)
※表の読み方/旧帝大などに合格実績のある高校へ調査を行い、現役進学率の上位校を掲載した。ただし、各表題大学の付属・系属校と現役進学者数が9人以下の高校は除いた。現役進学率(%)は、現役進学者数÷卒業生数×100で算出(2020年)。定時制や通信制を併設する学校は全日制の卒業生数を使用。同率で順位が異なるのは、小数点第2位以下の差による。学校名につくマークは国立、私立、公立を表し、地色が白色は中高一貫校を示す。ただし、公立は一貫生が卒業している併設型と中等教育学校のみ一貫校とした。協力/大学通信
※AERA 2020年8月31日号より抜粋
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