フジテレビの占い番組「突然ですが占ってもいいですか?」が大きな反響を呼んでいる。その背景には何があるのか。見えてきたのは、コロナ禍ならではの新しい潮流「他者への共感」だ。AERA 2021年4月12日号から。
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実際の占いの使い方は、人によってさまざまだ。
「毎年の点検みたいな感じで見てもらっています」
都内在住の50代会社員の女性は、占星術師を定期的に訪れ、7千円で鑑定してもらっている。街角の占い師や人づてに紹介してもらった占い師に見てもらったことも、10回はある。その多くはプライベートで悩んでいたり、大きな出来事がのちに控えていたりするときだ。
占いは、「自分で腑に落ちる何かがあればいい」。「結局は自分で決めないといけない。でも、考えを整理する助けになったり、心が軽くなるときがあります」
家族や友人、自分を知っている人に相談すれば、フィルターがかかった意見になる。そうではなく、自分を知らない人に見てもらって、違う角度から新たな手がかりを掴みたいという。
占い好きの多くは、こうした使い方をしているようだ。ザッパラスの代表取締役、玉置真理さんは分析する。
「高度経済成長期に目指した『成功や成長』という幸せの共通幻想をもはや持てなくなりました。それぞれが自分だけのファンタジーを持たなければならなくなり、『私の正解は何?』と迷って、自分の人生の延長線上を越えたところから、ヒントを求めているように思います」
■自己肯定感を認める
占いをライトに楽しむ人はさらに多い。
「元気を出すアイテム」と語るのは、大阪府の会社員女性(37)だ。「毎週、しいたけ.さんの占いを読んで、ホッとしたり力づけられたりしています」。当たりはずれは、「あんまり気にしない」。重要なのは、自分が一息つけるかどうかだ。
今年大学に進学した女性(18)は、ニュースサイトの12星座占いで毎日発表される星座の順位を楽しみにしている。
否定的な人もいる。メーカーの開発職の男性(46)は、女友達や娘と一緒にいる時、webや雑誌で占いがあればやるし、おみくじも引く。レジャーの一環だからだ。一方で、占いは「まったく信じない」と断言する。
占いはいつの時代も「自己肯定感を認めるもの」と分析するのは、データサイエンティストの松本健太郎さんだ。
「『占われたいこと』はつまり『その人が求めていること』です。僕自身は、完全なエンターテインメントだと考えています」
そんな中、占いの新しいヒットコンテンツが生まれ、新しい「使い方」が出てきた。
フジテレビの「突然ですが占ってもいいですか?」は、2020年1月にパイロット版の特別番組が放送されて好評を博し、4月にはレギュラー放送を開始した。一時期、占いやスピリチュアルを扱った番組は高視聴率を弾き出す鉄板番組だった。05年から09年に放送された江原啓之の「オーラの泉」、04年から08年に放送された細木数子の「ズバリ言うわよ!」は覚えている人も多いだろう。その後しばらく「占い番組」として話題になったものはなかった。
■希望者は19万人超
開始当初は、赤羽の飲み屋などを占い師が訪れ、居合わせた客を占うという企画だったが、コロナ禍で、スタジオで芸能人を、リモートで一般人を占うという構成が増えている。
占い師が、会ったばかりの見ず知らずの他人の出身地や出身大学、過去その人に起きた出来事を言い当てていく様子(番組ではこれを「ロックオン」と表現する)が話題を呼んだ。番組では一般から「占ってほしい人」を募ってきたが、なんと応募数は19万人を超えた。
よく番組を見る30代女性は、一般人が占われるパートが好きだ。たとえば、ある回ではこんなシーンが放映された。
「僕が占った中ではすごくお母さん思い、って出てますよ。お母さんに認められたい気持ちが強いはず。家出たいとか言ってるけど、本心ではない。一緒にずっといたいし、お母さんに幸せになってもらいたいという気持ちが強いはずですよ」
占い師の木下レオンが言うと、高1の次女と母は涙をこぼした。
「あなたは家族には口が悪くなったり強い自分が出てしまう。特にお子さんに対するしつけが非常にきついことがある。言わなくていい一言が多すぎる」「次女はあなたのことが好きすぎて、あなたの言うことに傷ついてる。振り向いてほしいからこそお母さんに言ってる。彼女は人生を踏み外しやすい時期に入っている。わだかまりを取っておいたほうがいい」
生年月日から母と次女の性格を導き出し、家族が抱えている問題や状況をズバリ言い当てる。顔を合わせたばかりの占い師に核心を突かれ驚きながらも、促されて普段言えない本音の言葉が二人からあふれ出た……。
女性は言う。
「苦労してきた人が占い師から肯定する言葉を言われたとき、涙している表情を見るとこちらもうるっときます。毒親に育てられて子どもとの関係に悩んでいる人、次男が亡くなって長男とうまくいかない人、みんなすごく苦労しているんだなって」
日常で自分の人生を他人から「肯定」してもらえる瞬間なんてない。特に昨年はコロナ禍もあり、仕事では報われなさばかりが募った、と女性は言う。
一体何がここまで視聴者を引き付けるのか。プロデューサーの春名剛生さんが話す。
「テレビ番組では街録と言って街に出てインタビューすることが多いですが、街ゆく人に声をかけて『つらかったことは?』『人生の転機は?』と聞いても、そう簡単には出てこないことが多いと思うんです。初めて会った人に話す必要はないし、本人も毎日そのことを思って生きているわけじゃない。でも、街録では出てこない深い話が、占いを通すと出てくる」
【あえて好きなものだけ食べる“カタルシスデー”をつくってみよう しいたけ.さんがアドバイス】
■物語を知る満足感
例えば放送開始当初の回では、ある女性が占いを通じて話をするうち、兄を亡くしたばかりだったと判明するシーンがある。一緒に飲んでいた同僚にすら話していなかったことだった。
このように、番組では占いで人間ドラマが引き出されていく。
「まったく知らない人なのに、応援したいと思える。スターにも悩みや浮き沈みがあることを知って、身近に感じられる。自分も頑張らないとな、と思える。人と対面しなくなってきているがゆえに、人の物語というものが立ち上がってくるのかもしれません」(春名さん)
占いは、以前は自分ひとりの体験で物語だった。だが、いまは共有できる。人のつながりが希薄になった中で、自分ではない誰かの人生の物語に共感し、肯定する。もしかしたら、私たちはそんなやりとりに飢えていたのではないか。
そういえば、冒頭の占い好きの女性はこうも話していた。
「(目的は)開運とかじゃない。ホロスコープは全部つながっていて、ストーリーがある。それが面白いんです」
先が見えない時代だからと言って、私たちは占いで「先」を言い当ててもらうことだけを求めているのではない。過去から現在、未来へとつながる物語。占いによって紡ぎ出される自分だけの物語、あるいはその人だけのオンリーワンの物語を知ることが、ある種の満足感をもたらしていることは間違いない。(文中一部敬称略)(編集部・高橋有紀、ライター・羽根田真智)
※AERA 2021年4月12日号
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