8月3日に完全移籍での加入が発表されてから8日後、本人にとっては「古巣対決」となる一戦で、長沼洋一は浦和レッズでのデビューを果たした。
明治安田J1リーグ第26節、サガン鳥栖戦。83分、ひとり少ない10対11の状況でピッチへ投入された。
レッズは最終ラインを3バックに変え、長沼は1列前の右ワイドに。
試合後、その位置での起用について長沼はこう語っている。
「練習ではサイドバックで、前めはやっていなかったんですが、どこでもやれるので、そんなに混乱もなく、ここで出ろと言われたらそこでやるだけです」
本人が口にした「どこでもやれる」という言葉。
それが、長沼洋一という選手の最大の特徴と言っていい。
「自分の強みは与えられたポジションで与えられた役割、そこでの良さを出すポリバレントなところだと思っています」
これまでのサッカー人生で「やったことのないポジションは?」と尋ねると、まず彼の口をついて出たのは「GK」というポジション。「あとは、4バックでのセンターバック以外はやったことがあると思います」というのが、長沼の答えだった。
今季ここまで怪我人が多かったことを思えば、非常に頼もしい選手が加入したと言っていいだろう。
レッズでのデビュー戦はアディショナルタイムを含めても15分に満たず、短いものではあった。それでも、その短時間のうちに攻守にわたって彼は「ポリバレント」の片鱗を見せている。
まずは守備面。
アディショナルタイムの92分、自陣左から右へと大きく振られた末に打たれたシュートに、長沼は素早く身体を寄せてブロック。これは、結果を左右したかもしれない重要なワンプレーだった。
そして攻撃面。
87分、FKの折り返しがゴール前にこぼれたところへ左足を伸ばした惜しい場面があった。
ポジショニングの妙を含めた得点感覚は、彼の持ち味のひとつだ。
その得点感覚はいつ頃に培われたものなのか――。
「いつなんでしょうね」と本人も首をかしげる。
「でも、普段からシュート練習は多くしていましたし、去年10得点できたんですけど、その中でちょっとずつ自信が付いていったんですかね」
昨季のリーグ10得点のうち、2ゴールはレッズとの対戦で挙げたものだ。埼玉スタジアムでは左足でのミドルシュートで、駅前不動産スタジアムではヘディングでネットを揺らしている。
また、昨季は自身の得点だけではなく、正確なクロスで決定的なチャンスも多く演出していた。その役割をレッズでも演じたいと、長沼は考えている。
「レッズに来てからの練習ではサイドバックをやることが多いんですけど、(大畑)歩夢や(石原)ヒロとは違う色が攻撃面では出せるかなと。内側を取るところが得意だと思っているので、そういうところを自分の良さとして出していけたらと思っています」
合流して、まだ日は浅い。
馴染んだとは、まだ言えない。
だが、長沼はこう語る。
「とにかく試合に出て、ピッチの上で結果を残すことが、チームに馴染むためには一番早いと僕は思っているんで」
レッズは長沼にとって、プロとして6チーム目となるクラブ。
移籍を重ね着実にステップアップしてきた男ならではの、経験と覚悟を感じさせるひと言だった。
(取材・文/小齋秀樹)
外部リンク