昨季のシーズン前、J2リーグのFC琉球から小泉佳穂が、同じくJ2の栃木SCから明本考浩が加入したとき、懐疑的なファン・サポーターもいたことだろう。
少なくとも、これほどチームに欠かせぬ存在になるとは想像できなかったのではないか。
その活躍は、彼ら自身の能力の高さに加え、リカルド ロドリゲス監督のスタイルに合う選手をリサーチし、アプローチした浦和レッズ フットボール本部の手腕によるものだと言ってもいい。
もちろん今季も、J1のみならずJ2からも指揮官好みの選手を招き入れた。
徳島ヴォルティス時代に1年間、リカルド ロドリゲス監督のもとでプレーし、指揮官の戦術を知り尽くしているのが、大宮アルディージャから加入したDF馬渡和彰だ。
指揮官からもさっそく「レッズでは、徳島のとき以上に輝くことが求められるよ」とハッパを掛けられていた。
攻撃的なサイドバックで、左右両サイドをこなせるのも魅力。1月15日の始動日にはゲーム形式のトレーニングで左サイドバックを務めていた。
戦術眼や臨機応変さも兼ね備えているところは、相手を見てサッカーをするリカルドスタイルにうってつけの選手だろう。
「何を求められているのかを整理しながらプレーしています。自分で考えながら、試合状況に応じて、相手も見ながらプレーしています」
J3のガイナーレ鳥取からキャリアのスタートさせた苦労人でもある。そこからJ2のツエーゲン金沢、徳島、J1のサンフレッチェ広島、川崎フロンターレと上り詰め、この2年はJ1の湘南ベルマーレ、J2の大宮でプレーした。
「自分のキャリアはこれまでかな、と思うこともあった」が、シーズンを通して活躍し、再びJ1の舞台で戦うチャンスを掴んだ。こうしたハングリーさも、チームに好影響をもたらすに違いない。
最終ラインからのビルドアップをさらに強固にしてくれそうなのが、FC琉球から加入したDF知念哲矢だ。
指揮官待望の左利きのセンターバックで、対人能力に秀でているが、レッズでよりクローズアップされるのは、やはりボールを奪ってからのプレーだろう。
「縦に速いボールをつけてFWの選手の攻撃につなげるような、攻撃的な守備が特長」と本人も自信をのぞかせる。
知念が左センターバックに入るなら、アレクサンダー ショルツの右センターバック起用も視野に入ってくる。むろん、岩波拓也、ショルツ、知念の3バックの構想も膨らむというものだ。
関根貴大、大久保智明、ダヴィド モーベルグ、松尾佑介のハイレベルなウイング争いに割って入りそうなのが、水戸ホーリーホックからやって来たMF松崎快だ。
柔らかいボールタッチと独特のステップワークで相手を抜き去るドリブラーで、昨季は8ゴール中4ゴールが決勝点と、勝負強さを発揮した。
「大外でもインサイドでも生きる」と本人も言うように、始動日のトレーニングでは巧みにインサイドに潜り込み、正確な技術を披露していた。「ボールを受けるときのターンにこだわりを持っている」と、ドリブル以外の強みもアピールしている。
埼玉県川越市出身だから、地元の選手でもある。昨年まで水戸で一緒にプレーした平野佑一とのホットラインにも注目したい。
同じく水戸から加わったのが、GK牲川歩見だ。ジュビロ磐田のアカデミー出身で、磐田では出場機会を得られなかったが、J2のザスパクサツ群馬やJ3のアスルクラロ沼津で試合経験を積んだ。
水戸に移籍したのは20年のこと。昨季は40試合に出場し、正GKとして水戸のゴールを守った。
ストロングポイントは、195cmという恵まれた体格を生かした空中戦の強さ、守備範囲の広さだ。
「身長という武器は(西川周作、鈴木彩艶と比較して)一番秀でている武器だと思います。その武器を使ってアピールしていきたい」と定位置取りにむけて意欲を見せる。
今季はGKコーチにスペイン人のジョアン ミレッ氏が就任した。横一線のスタートとなるだけに、突出した武器のある牲川にチャンスが訪れても不思議ではない。
J2からの移籍組は4人。さらにフレッシュな4人のルーキーが加わった。
流通経済大学から加入するDF宮本優太は、2020年11月にすでにレッズ入りが内定し、昨年のプレシーズンキャンプにも帯同していた。
指揮官が「ランニングマン」と名付けたほどの走力、スタミナ、持久力の持ち主で、90分間アップダウンできる典型的な右サイドバックだ。
大学2年時には、日本代表の長友佑都自らフィジカルトレーニングをレクチャーする企画に応募して当選し、弟子入りした経験もある。
レッズの右サイドバックと言えば、現役日本代表の酒井宏樹が君臨する。本人も「簡単にスタメンを取れるような話ではない」と認めるが、「多くを盗み、自分のモノにしていきたい」と最高のお手本から学ぶ意向で、「自分も負けていない部分もある」とプライドも覗かせた。
同じく流通経済大から加入するMF安居海渡は、大学ナンバーワン・ボランチと高く評価される選手だ。
ボール奪取力とビルドアップ能力に秀でたオールラウンダータイプ。多くのJ1クラブが獲得に動いたが、本人は埼玉県川口市出身で、子供のころから埼玉スタジアムでレッズの試合を観ていただけに、レッズのユニフォームをまとうことを選んだ。
対戦を楽しみにしているチームとして挙げたのは、京都サンガF.C.だった。
「自分が大学3年のときに教えてもらった曺(貴裁)さんもいますし、先輩のアピさん(アピアタウィア久)も、(浦和学院)高校時代に一緒に戦った田中(和樹)もいるので、そのチームには勝ちたい」
縁もあるのか「リーグ最初の試合も京都なので、そこに絡んでいければ」と開幕スタメン、ベンチ入りを目標に掲げている。
次世代のレッズを担う存在として嘱望されているのが、京都橘高校から加入するFW木原励だ。「彼の世代でも目立った存在だと思う」と指揮官も大きな期待を寄せる。
裏への飛び出しに優れた点取り屋だが、「ポストプレーやクロスへの入り方など、伸ばさなければならないところはたくさんある」と自身の課題をしっかり見つめている。
純粋なストライカーは現時点でキャスパー ユンカーだけ。高卒ルーキーには思いのほか早く出番が回ってくるかもしれない。
「5点を決められるように頑張っていきたいです」という言葉も頼もしい。
レッズユースから昇格した工藤孝太については、詳しく語るまでもないだろう。知念と同じく、貴重な左利きのセンターバック。レッズユースに所属していた昨シーズン、すでにYBCルヴァンカップでトップチームデビューを果たし、堂々たる姿を披露した。
もっとも、リーグ戦、天皇杯での出場機会は得られず、「自分の力不足を痛感した」と悔しさを滲ませる。
もちろん、力不足のままではない。
「体の向きやロングボールの質がすごく成長した。ヘディングで相手選手に負けないところやセットプレーで得点を取るところなど、去年より成長した姿を見せられる自信がある」と意気込む。
ワールドカップイヤーである今シーズンは、例年以上の過密日程を余儀なくされる。しかも、レッズはAFCチャンピオンズリーグに参戦するため、選手層が問われることになる。
小泉や明本、昨季のルーキーだった伊藤敦樹や大久保がすでに欠かせない戦力となっているように、J2から加入した選手たちだけではなく、ルーキーにとってもチャンスは必ず訪れるに違いない。
3カ年計画の3年目、結実のシーズンを総力戦で戦い抜いたとき、目標であるリーグ優勝、アジア制覇が見えてくる。
(取材・文/飯尾篤史)