「アドレナリンが出ているんでしょうね。試合のあとは寝づらいんです。一時期、通訳とは別の仕事をしていたんですけど、試合に向けて感情がたかぶる日々から遠ざかり、すごく恋しかったんです」
「頭の中にスペイン語と日本語の部屋があって、それとは別にポルトガル語とフランス語の部屋、また別のところに英語の部屋がある。その3部屋が繋がっている感じです」
「言語を訳すということでは同じですからね。もちろん、監督担当の場合は、試合に向けての準備の段階がすごく重要になってきますし、ターゲットが選手全員になる。一方で選手通訳の場合は、絞られたターゲットに対して、その場、その場で伝えていくことになる。ただ、浦和の場合はトレーニング内容など、事前に共有してくれますから」
「例えば、ミーティングで戦術的な話をしていたら、できる限り直訳に近いことを伝えます。練習中の指示は、ターゲットがどう受け取るかを重視して、その人が何を伝えたいのかを意訳します」
「昔、ある選手に、羽生さんの通訳って字幕みたいですね、って言われて、すごく嬉しかったんです。字幕が気になって、映画の内容が頭に入ってこなかったら嫌じゃないですか。その言語が流れ、字幕を読んでいる意識がないのに頭に入ってくる。それと同じで、通訳を聞いている意識なく、その人の喋っている言葉が入ってくる。そんな通訳が理想ですね」
「ちょっかいを出してくるのはファブリシオ。彼はいつもジョークを言っているんですけど、実は真面目で。帰宅してからも体のケアをしっかりやっているし、信仰心の深い選手でしたね」
「ああ見えて、マイペースなんです。例えば、ブラジル人選手たち4人で食後に雑談していても、スッと席を立って部屋に戻っていったり(笑)」
「レオナルドは負けず嫌いで、感情を露わにするタイプ。裏表があるわけではないですよ。正直に、自分の気持ちを発信している。だから、よく喋ります。エヴェルトンは大人と言いますか、落ち着いていますね。ジョークも言うし、よく喋るんですけど、熱くなり過ぎず、自分をコントールできる選手。練習でも常にベストを尽くしています」
「ふたりには『向こうでも頑張って。幸運を祈っている。応援しているから』と伝えました。彼らも『向こうでもレッズの試合をフォローするし、頑張ってほしい』と言っていました。マウリシオの場合、家族とずっと会えていなかったですけど、今回、ポルトガルに行って家族と会えた。精神的にも、彼にとっていいことだったんじゃないかなって思います」
「自分がいるから成功したなんて思わないですけど、成功していく過程に携わることができる喜びがありますよね。チームを作り、結果を残し、タイトルに繋がっていく。その過程に携われることに、やり甲斐を感じます。他の仕事と比べて、アドレナリンの量は多めに出ていると思います(笑)」
「コツコツやるしかないです。その言語に触れる時間が大事ですから。フランス語を勉強していたときは、教材に付いているフレーズ集のCDを携帯に取り込んで、通勤の電車で毎日聞いていました。行きはフレーズ集を聞いたら、帰りは動詞の変形を覚えたり。職場にフランス人がいましたから、『下手だけど使います』と言って、どんどん使って、間違っていたら訂正してもらったり。
(取材/文・飯尾篤史)