思わず、目を奪われた人も多いのではないか。
7月2日のガンバ大阪戦、6日の京都サンガF.C.戦と2試合連続でPKを誘発し、10日のFC東京戦では貴重な先制点をアシスト。きっかけはすべて縦に仕掛ける電光石火のドリブルからだ。
7月に入り、目に見える結果を残す松尾佑介は、レッズの最前線でのプレーに確かな手応えを感じている。
「周りが僕を見てくれるようになり、自分の欲しいタイミングでパスをもらえるようになりました。チームの仕掛けがよりゴールに向くようになったことも大きいです。僕の特長にあう形が増えてきました」
縦に速い攻撃は、得点力不足に悩むチームの起爆剤になっている。松尾は前方にスペースがあれば、持ち前の快足を生かし、迷わずに勝負を仕掛けていく。
京都戦では58分に江坂任から絶妙の縦パスを受けると、スピードを殺さずにファーストタッチで前に運び、GKとの1対1に持ち込んだ。シュートこそ枠を捉えられなかったものの、チームの新たなスタイルをうまく具現化したワンシーンだった。
「大胆にチャレンジするパスが増えてきたと感じます。ボールをもっと集めてもらえれば、得点に絡む機会が増え、チームに貢献できる機会が増えるのではないかと思います。個人的に調子は前から悪くないので」
松尾の言葉尻にはプライドがにじむ。
夏を迎えて、急に覚醒したわけではない。4月15日から30日まで、タイで集中開催されたAFCチャンピオンズリーグ2022(ACL)のグループステージでは6試合に出場し、5ゴールをマーク。本職のサイドハーフではなく、慣れないFWで数字を残してきた自負はある。
それでも、帰国後のリーグ戦では、5試合連続で後半途中からの出場。先発への思いを募らせ、メラメラと闘志を燃やしていた。
「チャンスが来るのを待つしかなかった。早くスタートからピッチに立ち、いいパフォーマンスを見せようと、逆にモチベーションを高めていました」
そして、5月28日のアビスパ福岡戦で、ACL以来6試合ぶりにFWとして先発メンバーに名を連ねた。
結果はスコアレスドロー。このときはリカルド ロドリゲス監督に求められた役割と自分の理想の折り合いをうまくつけられなかったが、フル出場を果たして、チーム戦術の中で個性を生かす術を再確認した。
「カウンターの場面になると、独力で1枚、2枚ははがせます。京都戦でPKをもらったときのような(独走で抜けていく)プレーを出せれば、1トップもできるなと。僕は前線でパスを待つタイプではないので、ボールにより関与するようにしています。ペナルティーエリア内でパスを受けることもそう。いろいろな引き出しがあります。見かけによらず、器用なほうだと思います」
昨季、横浜FCでサイドだけでなく、中央に入るシャドーのポジションも経験したことが生きている。
ペナルティエリア内でパスを受け、味方を使うプレーもお手の物。FC東京戦ではダヴィド モーベルグへのアシスト以外にも見せ場はあった。
前半途中には大久保智明のパスを受け、ヒールで流して伊藤敦樹の絶好機を演出。目を引く連係プレーだった。ただ、本人はチームプレーの重要性を強調した上で、ゴールへの欲も隠そうとはしない。
「点を取る選手には価値があります。横浜FCでも点を取り始めてから、チームの力になれていることを実感できました。僕自身、浦和でもそれを感じたい。決定力はあるほうだと思っています」
2020年シーズンは左サイドでプレーしながら、チーム最多の7ゴールを記録。言うだけの結果は残している。
鼻っ柱の強さは、幼少期からずっと変わらない。ジュニアユース(中学生年代)、ユース(高校年代)と浦和の育成組織で育ち、トップチームに昇格できずに仙台大学(宮城)へ。
関東から離れた東北でプレーしているときも、特別指定選手としてJ2の横浜FCでプレーしているときも、自信は揺らがなかった。
「まだ何も手にしていないときから、『自分は特別なんだ』と思い続けてきました。『僕はプロになれる』と思っていましたから。特に根拠はないんですけど、そのメンタリティがいいプレーにもつながっていると思います。僕にとっては大事なもの。悪いときでも、自分は何かができると信じています」
横浜FCで積み上げてきた実績が高く評価され、今季から古巣に復帰した。クラブの期待はひしひしと感じている。リーグ戦は残り13試合。独自のストライカー像を確立し、『松尾色』を出して勝負していく。
「1試合1ゴールは決めていきたい。点は取れるだけほしいですが、前線でつぶれ役になり、チームのために体を張ることも必要です」
野心家で勝ち気な性格ではあるが、エゴイストではない。サッカー選手として、しっかり一本芯が通っている。
「チームのために戦えない選手は、選手ではない。生え抜きは関係ない。常に戦うことを意識してきました。僕は特別な存在になりたいとは思わないけど、どんなときもチームのために尽力したい」
7月23日に25歳の誕生日を迎える正直者は、言葉に力を込めた。建前などない。己を信じて、まっすぐ突き進む。
(取材・文/杉園昌之)
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