J1レベルを体感するのは久しぶりだったため、チームの始動直後はスピード感に戸惑うこともあったが、今は自身の持ち味を出せるようになってきている。
だからこそ、レギュラー組とサブ組がはっきり分けられている現状にもどかしさを覚えつつ、武田英寿は懸命にアピールに励んでいる。
「分けられてしまったのはもう仕方がないので、そんなに深く考えていないです。やり続けるだけですし、チャンスが来たときにやるだけだと思っています」
キャンプ序盤はアンカーで起用されていたが、今は武田自身が「やりたい」と語っているインサイドハーフでプレーする機会が増えた。とはいえ、「8番の選手が多い」とペア マティアス ヘグモ監督も言うように、このポジションは伊藤敦樹、小泉佳穂、中島翔哉、安居海渡、エカニット パンヤ……と、ライバルがひしめく激戦区。求められる役割への理解を深め、自分らしさをコツコツとピッチで披露している最中だ。
「自信があるのは、ボール扱いやターンのところですね。ある程度形を変えないでやるので、シャドー(インサイドハーフ)のところで相手からマークされていても、ターンしてウイングやセンターフォワードに預けたり、シュートを打てたりするかが問われると思う。そういうプレーを見せていきたいです」
振り返れば、昨シーズン序盤の安居海渡と荻原拓也もまったく出番がなかったが、巡ってきたチャンスを活かして欠かせぬ存在となっていった。武田自身も3年前、出場機会を得られず苦しんでいた。その結果、期限付き移籍の道を選んだが、今オフ、厳しいポジション争いが待ち受けていることは覚悟のうえで2年半の武者修行から復帰した。
「どれだけ同じメンバーを起用し続ける監督かはまだわからないですし、トレーニングマッチも組んでくれています。そのなかで、パッと入ってやれるなっていう感覚もあるので、チャンスがいつ来ても、できると思っています」
3年前と変わったのは、経験とメンタリティだけではない。プライベートでは昨年9月に入籍し、心身ともに充実した状態で大原サッカー場での日々のトレーニングに臨んでいる。
新婚生活に話題が及ぶと、22歳の青年の表情がパッと明るくなった。
「楽しいです。手料理とかめちゃくちゃ美味しいです。やっぱ、(結婚は)いいっすね」
自身のアピールポイントとして武田は「ボール扱いやターンのところ」としか答えなかったが、キャンプや練習を見ていて明らかに光るのが、左足のキックやプレースキックの精度だ。トレーニングキャンプ中の練習試合でも、セットプレーの練習でも、際どいボールを何度も蹴り込んでいた。
トレーニングマッチでその左足がチームの力になることを、マティアス監督をはじめとするコーチングスタッフに認識させ、心変わりを促すしかない。
今のチームには絶対的なプレースキッカーがいない。武田に白羽の矢が立つときは必ず来るだろう。長いシーズンはまだ始まったばかりだ。
(取材・文/飯尾篤史)
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