持ち味が凝縮された加入後初ゴールだった。
12月3日に札幌ドームで行われたJ1リーグ第34節の北海道コンサドーレ札幌戦。後半開始からピッチに立った中島翔哉は72分、ホセ カンテがヘディングして浮いたボールの落下点を見極めると、相手を背負いながらトラップし、ターンしながら左足でシュートを放った。
ゴールが決まるとカンテに担ぎ上げられ、中島らしい少年のような笑顔でチームメートと喜び合った。
トレーニング後にはいつも居残りでシュート練習を行っている。時間を忘れるようにボールを何度もゴールへ蹴り込むことが日常であり、ピッチに最後まで残ることも珍しくない。
ときに早めに切り上げれば、チームメートから「もう終わり?」と驚かれることもあるほどだ。
シュートもただ打つのではなく、いろいろな手法を試している。ときにはつま先でのシュートに限定してみたり、ボールをまったく見ずにGKの目を見ながら打つ、なんてことも。
Jリーグでの6年ぶりのゴールは、才能や努力によってもたらされた、卓越した技術から生まれた。
「ホセ(カンテ)が後ろにそらしてくれるのは分かっていました。たまたま僕のところに来て、いいトラップができて、あとは股を通すだけだったので、そこを見ながらシュートを打ちました」
相手の股は開くのを待ったのではなく、ボールの置きどころや動かし方で開かせるイメージ。ただ、イメージはあくまでイメージ。
「後から説明するなら、そんな感じです。でも、その瞬間はそんなことは考えていません」
中島らしい答えだった。そしてボールが来たことと同様、トラップの置きどころが良かったことも「たまたま」と表現する。そして「たまたまのほうがいいです」と笑う。
常人には理解しがたい表現だが、つまりは「頭を使って『ここに止めよう』というよりも、たまたま自然と次に行く」ということ。言い換えれば、体に染み付いているプレーだということだ。
この試合は今季のJ1リーグ最終節であり、そしてレッズでも活躍した小野伸二の現役最後の試合でもあった。
FC琉球時代のチームメートである小野を尊敬してやまない小泉佳穂は、自身とは違う小野の感覚についてこう評していた。
「理論や理屈ではなく、イメージやセンス」
それは小野を「小さいころから見ていた」中島とも共通することでもある。小野は『ファンタジスタ』と言われ、観る者を魅了し続けてきたが、人を楽しませることは中島にとっても「大事にしていること」。
小野の現役ラストマッチで中島の加入後初ゴールが生まれたことは単なる偶然でしかないのだろう。それでもその偶然が中島の今後を示唆していると思うのは、小野や中島のファンタジーにほだされ過ぎだろうか。
レッズの選手として初めて出場したJ1リーグ第22節の横浜F・マリノス戦から約4ヵ月を経て公式戦10試合目での初ゴール。負傷離脱した時期もあり、中島自身は「なかなかチームの勝利に貢献できてない」と、もどかしい日々を送っていた。
だが、ゴールという事実が中島をポジティブにさせる。
「リーグでは最後になってしまいましたが、いい形で終えることができました。決めずに終わるよりは決めたほうがいいですし、まだ試合はあります。全力でそういうプレーができればと思っています」
今季残すはFIFAクラブワールドカップ、世界との闘い。中島は今年夏までの6年間、ヨーロッパでプレーしてきた。外国籍のチームメートとの関係も「海外でのプレーも長かったので良好」と言うならば、対戦も慣れているはずだ。
感覚を大事にするが、その点においても「レッズでは考えなくても自然とできるようになってきている」という中島。FIFAクラブワールドカップではどんなプレー、どんなチームへの貢献の仕方で我々を楽しませてくれるだろうか。
(取材・文/菊地正典)
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