リーグ戦では8ゴールを記録し、J1の得点ランキングでも5位タイ。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022を含めると、今季の公式戦ではチーム最多の10ゴールをマークしている。
今年3月に途中加入したダヴィド モーベルグは、自らの数字を見ても一喜一憂することはない。
「年齡を重ねてくると、自分をどのようにマネジメントすれば、うまくいくのかが分かってくるものです。僕は目に見える数字よりも、試合中にどれだけ良いパフォーマンスができたどうかにこだわっています。自分に自信を持ってプレーすることが大切。結果はあとからついてくるものです」
28歳のスウェーデン人は、達観したような口ぶりで、いまの自分を見つめていた。
8月13日のジュビロ磐田戦でも2ゴールを挙げたばかりだが、積み上がっていく得点数には興味を示そうともしない。むしろ、あえて意識しないようにしているのだ。
「僕も若い頃は『スコア、スコア』と言って、点を取らなければいけないという気持ちでプレーしていました。でも、点を取れない時期もあります。イングランドのプレミアリーグで得点王になったリバプールのモハメド サラーだって、5試合連続で点を取れないこともあるんですから。これは誰にでも、起こり得ること。点を取れなくてメンタルを乱し、不調に陥るのが一番ダメです。僕はストレスを感じずに、継続することが大事だと思っています」
かつてゴールにとらわれた男の心に落ち着きをもたらしたのは息子だった。
子どもを授かってから、考え方が変わったのだ。自宅に戻り、愛息の顔を見ると、自然と父親の顔になる。
家族と過ごす時間はかけがえのないもの。サッカーがすべてではないことに気づいた。ときには息抜きも必要。四六時中、頭の中でボールを追いかけていた時期をしみじみと振り返る。
「昔は試合でミスをすれば、家でもずっとそのことを考えていました。どうしても、頭から離れなくて……。僕にとっては、ピッチを離れたときに、家族がそろっていること、息子がいることで、メンタルのバランスを整えられるようになったんです。
いまは長男が5歳、次男が2歳。2人の子どもは、僕のサッカー人生にいい影響を与えてくれています」
日本に来ても、モーベルグの生活リズムは大きく変わらない。2人の息子と手をつないで散歩し、ふと心を休める。そして、またサッカーに集中する。
一時、先発メンバーから外れた時期も自分の力を信じていた。6月26日のヴィッセル神戸戦では後半途中から出場し、終了間際に直接フリーキックを沈めて決勝ゴールをマーク。
「あらためて、存在価値を証明できたと思います」
再び徐々に出場時間を増やしていくと、多彩なプレーから好機を演出するようになった。
武器のカットインをフェイントに使うのは、ヨーロッパ時代から磨いてきたものだ。
7月10日のFC東京戦では、レフティの切り返しを警戒する相手をあざ笑うようなヒールパスで相手の逆をついて江坂任につなぎ、大久保智明の3点目をお膳立て。
7月30日の川崎フロンターレ戦では中央に切れ込むと見せかけて、縦への仕掛けから右足クロスで伊藤敦樹の先制ゴールをアシストした。
練習を重ねたような連係プレーだったが、決まりきったパターンではないという。
「ピッチではインスピレーションを大事にしています。時々、自分でも何が起きたか、分からないことがあるんですよ。たとえ自信のある武器は持っていても、それだけにこだわらないようにしています。もっと引き出しを増やしていきたい。僕自身、さらにレベルアップできると思っています。もちろん、チームメイトとのコンビネーションを向上させることにも力を注いでいます」
同じ右サイドでプレーする酒井宏樹には、ピッチ内外でサポートを受けている。試合になると、言葉を交わさなくても、イメージを共有できることが多い。ヨーロッパのスタイルが染み付いたサイドバックの動きだという。
ベンチに並んで座っているときには、日本とヨーロッパの違いについて、英語で詳しく説明してもらったこともある。
「ヒロキには一番助けてもらっています。ヨーロッパで長くプレーしてきたから、僕らのことがよく分かるんでしょうね。チームでは外国籍選手と日本人選手のパイプ役になってくれています。
日本代表をはじめ、多くの実績を残していますが、それを鼻にかけることもありません。地に足がついている素晴らしい人格者です」
来日から5カ月。Jリーグの水に慣れ、チームにもスムーズに溶け込んでいる。初めて経験する日本独特の高温多湿が続く夏にも対応。
「とてつもない暑さ」と苦笑しながらも、腹をくくっている。自分の力で変えられない環境に愚痴をこぼすことはない。
「日本の選手たちもきついくらいですから。僕らだけが苦しいんじゃない。みんな、同じこと。僕はどれだけ気温が高くても、練習して頑張り続けます」
酷暑で疲労困憊になっても、背中を押してくれる頼もしい味方もいる。
声出し応援が一部許可されたYBCルヴァンカップの名古屋グランパス戦では埼玉スタジアムで初めて大声援を受け、熱狂的なファン・サポーターに支えられているレッズの一員であることをあらためて実感した。
入場するときから感慨を覚え、試合後の凱歌を聞いたときには心が震えた。
「幸せな時間でした。深呼吸をして、1秒1秒を楽しみました。あの声があれば、プラスアルファで15%、いや20%増しの力が出ます。レッズのファン・サポーターは本当に『12人目の選手』ですよ。取り繕った言葉ではなく、本心からそう思っています。
勝負ごとなので、負ける日もあるでしょう。ただひとつ言えることは、今後、声が自由に出せるようになれば、ホームでの勝率はさらに上がると思います」
8月19日から始まるACLのノックアウトステージは、すべて声出し応援の対象試合となる。
レッズが戦う舞台は埼玉スタジアム。1試合で決着をつける緊迫あふれるシングルマッチに向け、モーベルグは静かに精神統一していた。
初戦はマレーシア王者のジョホール・ダルル・タクジム。凱歌が響き渡るスタジアムの光景を思い浮かべるのではなく、目の前の相手を打ち負かすことだけを考えている。
「いまは試合だけに集中しています。J1リーグでも、ルヴァンカップでも、ACLでも、勝たないといけない。われわれは浦和レッズです」
攻撃の柱としての自覚を持つ10番は、言葉に力を込めた。先のことは考えず、まずはラウンド16で死力を尽くすことを誓う。結果はあとからついてくる――。
(取材・文/杉園昌之)