手段が目的になってはいけない――。代名詞となっている武器のことである。
ベルギーのクラブ・ブルージュから浦和レッズに完全移籍で加入した本間至恩は、まず初めに釘を刺した。
「僕の特徴はドリブルとよく言われますが、それはゴール、アシストに結びつけるためにすること。こだわっているわけではないんです。もしもチームに役立たないものであれば、どんなドリブルも意味がないと思っています。それは、これまでの経験、キャリアを通して、学んできたことです」
23歳のはっきりした物言いには強い意志がにじむ。ドリブラーである前にチームプレーヤーであることを強調した。ワンタッチ、ツータッチでテンポよくパスが回り、ゴールまでたどり着ければ、それこそドリブルは必要ないという。では、いつ独力突破が求められるのか。
「チームが困ったときの抜け道をつくられれば、と。攻撃のレパートリーを増やすのが、サイドアタッカーの役割。判断良くプレーすることを心がけています。それが僕のスタイル」
身長は164cm。日本とは比較にならないほど大柄な選手が多いベルギーでもまれ、自らが生きていく術を再確認した。小さな体でボールを守るのは難しい。パスを受けるエリアを考え、素早い球離れを意識している。ボールを受ける前に周囲を見て、中盤ではシンプルにボールをはたく。そして、状況に応じて、仕掛ける。
「僕のような体の選手は、いかにペナルティーエリア内で勝負できるかどうかだと思っています」
16歳でアルビレックス新潟のトップチームに登録されたころに先輩のチームメートから助言された教えでもある。
当時はまだ高校生だったが、日本代表経験を持つベテランは十代の若い選手たちのことを気にかけ、よく話してかけてくれたという。
本間は可愛がられ、スパイクまでもらっていた仲だった。似たような体格で同じドリブラー。見習うべき点は多かった。全体トレーニング後、ジムでのトレーニングをさぼると、「やんねーのか」と促され、一緒に汗を流すこともあったようだ。
「タツさんがやっているんだから、と思って、ジムに行っていましたね。タツさんの練習に臨む姿勢は刺激になりましたし、いろいろと教えてもらいました。
それこそ、何のためにドリブルをするのかも、タツさんに言われたので。『必要のないときは力をためろ。ペナルティーエリア内に入って、チャンスのときに力を出すんだ』って。タツさんはミシャ(ペトロヴィッチ監督/現北海道コンサドーレ札幌)から教わったみたいですよ」
本間が『タツさん』と呼ぶのは、かつてレッズで活躍したレジェンドの田中達也である。
ワンダーボーイの異名を取ったドリブラーの薫陶を受けた男はいま、浦和のために全力を尽くすことを誓う。
「ゴール、アシストはもちろんですが、それができないときでも自分が走り、前からプレッシャーをかけることで貢献したい。チームの勝利を1番に考えたプレーをするのが、僕のモットーです」
登録上は7月14日の京都サンガF.C.戦から出場可能。徐々にコンディションを上げている段階ではあるものの、いまから浦和デビューが待ち遠しい。
(取材・文/杉園昌之)
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