浦和レッズのクラブスタッフが思わず見間違えてしまったという。
「あれ、知念(哲矢)?」
いや、違う。よく見れば、知念のアフロヘアのボリュームよりはダウンし、体のサイズは少しばかり大きい。フワフワしたカーリーヘアで現れたのは岩波拓也である。
ダイナミックなサイドチェンジのパスで会場を沸かせるセンターバックは、イメージチェンジも大胆だった。
思い切った決断の理由を本人に尋ねると、気持ちよく答えてくれた。
「『ノーセット』でプレーしたかったんです。以前はジェルで固めてスタイリングしていたのですが、天候などに左右されるので。風が吹けば前髪が落ちてくる、雨が降れば溶けたジェルが目に入る、ヘディングをすれば、ボサボサになりますしね。槙野(智章)くんみたいに常にバッチリにはできないし(笑)」
今のカーリーヘアは風にも負けず、雨にも負けない。ピッチの上でどれだけ激しく動いても、大きな変化はない。
朝起きたままでも問題なく、練習後にシャワーを浴びたあとも何もしなくていい。手間いらずで、セットの時間は大幅に短縮されたという。
「テーマは楽(らく)さです」
ただし、短髪という選択肢はなかった。せっかく伸ばしてきた髪である。後ろで束ねることも考えたが、どうもしっくりこない。
あるとき、妻の弟に勧められたのが“スペインカール”という髪型。そして、行きつけにしている原宿の美容室で相談し、1時間かけて仕上がったのがこれだ。
「本来はサイドと後ろを刈り上げるみたいなのですが、僕は整える程度にしてもらいました。だから、“スペインカール風ですね。テツ(知念)のアフロとは違います。あれは僕よりも1ランク上(笑)」
本人はいたく気に入っているものの、周囲の人たちは見慣れるまで多少の戸惑いがあったようだ。
マチェイ スコルジャ監督からは「新しい選手が入ってきた」と冗談交じりに驚かれ、あるベテラン選手には「売れ残ったトイプードル」とイジられている。
「奥さんの反応もイマイチでしたが、チームメイトの言葉には大爆笑していました。うちはトイプードルを飼っているんです」
最近では、すっかりキュートで寂しげなニックネームも馴染んできた。名付け親である先輩はクラブハウスで『売れ残ったトイプードル』を見つけると、透明のガラス越しに拳でコツコツと叩き、喜んでいる。ペットショップでよく見る光景だ。
「一応、こちらも反応しますよ。正直、おいしいなと思っているので」
笑いのツボは心得ている。ニヤリと笑う28歳は、神戸生まれの関西人。あすも岩尾憲の愛あるイジりを待っている。
(取材・文/杉園昌之)
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