日が沈み始め、晩秋の肌寒さが一層身に染みた。11月5日、今季の公式戦を締めくくるホーム最終戦セレモニーは、晴れ晴れしい気持ちで迎えることはできなかった。
最後にスタンドをぐるりと1周するなか、応援してくれたファン・サポーターへの感謝を感じながらも、やるせない気持ちになった。
「情けなくて。後悔、そして悔しさが残ります。J1リーグ優勝という目標から、かなり遠い位置でフィニッシュしたので」
ヴィッセル神戸から完全移籍で浦和レッズに加入し、「1年1年が勝負だ」と言い聞かて5年が過ぎた。エンブレムの重みをひしひしと感じ、求められていることも理解している。
シーズン終盤は、何度も自問自答を繰り返した。
〈自分はこのチームでプレーする価値があるのか〉
2022年はリーグ戦31試合(先発30試合)に出場。西川周作、アレクサンダー ショルツに次ぐ、出場時間だった。
浦和のユニフォームを着て、ピッチに立ち続けた者として、思うように勝ち点を積み重ねられなかった現実はしっかりと受け止めている。
最終順位は昨季の6位を下回る9位。YBCルヴァンカップ、天皇杯でもファイナルに進む前に敗退し、無冠に終わった。
「毎試合、浦和の選手として相応しいプレーを示せたのかと問われれば、疑問符がつきます。試合に出ているだけで、何も勝ち取ることはできなかったので。本気でリーグ制覇を目指して戦えていたのか、と。口で言うほど、リーグ優勝は簡単なものではないです。クラブが下した決断に対して、僕も少なからず責任があると思っています」
リカルド ロドリゲス監督体制の2年目は、メンバーが大幅に入れ替わるなか、昨季築き上げてきたスタイルをベースに戦ってきた。
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022で決勝進出を果たすなど、良い時期もあったものの、リーグで優勝争いができなかったのも事実。長年、レッズを支えてきた選手たちの存在価値をあらためて思い知らされた。
昨季限りでチームを離れた槙野智章、宇賀神友、さらには現役を引退した阿部勇樹の影響力は計り知れないという。
「練習の雰囲気づくりなど、あの人たちがいたからこそ、維持できていたところもありました。年上の選手たちがいなくなり、僕もそういう仕事をしないいけないと思っていましたが、まとめ切れなかった。大一番の試合で勝てず、チームとしての若さが出ました。
試合で一人ひとりが100%の力を出すだけでは優勝はできない。団結力は必要。そこが優勝を争うクラブとの差でした。勝っているときはみんな良いプレーができますが、歯車がひとつ狂うと、パフォーマンスが低下しました。ひとつ負けたときが肝心。強いチームは連敗をしませんから。自分を含めて、全体の雰囲気を変えるような存在感を示すことができなかった」
もちろん、高い経験値を持つひとりとして、何もしなかったわけではない。試合間隔が空いた若手に声をかけ、調子を崩している選手とも積極的にコミュニケーションを図る努力はしていた。ピッチ外で試行錯誤を繰り返すなか、学んだことも多かった。
「勝つチームを作っていくうえで必要なことを自分の中で見つけました。僕自身、足りない部分は認識しているし、頭の中で整理できています。今ここで言えることは少ないですが、来季以降、生かしていきたい」
神戸U-18時代の高校3年時にプロ契約を結び、Jリーグの舞台で戦い始めて11年目。スペイン人監督の指導を受け、センターバックとしてプレーの幅は広がった。
最終ラインからの持ち運び、GKがボールを持ったときのポジショニングなど、ビルドアップの細かなノウハウを習得。それでも、本人は現状に満足せず、相手FWに厳しくプレスをかけられたときの対応など、自らの課題に目を向けている。
「まだ余裕が足りない。前から激しく来られても、後ろで起点を作ることができれば、もっといい試合ができます。そこは自分の改善点であり、伸びしろだと思います」
センターバックを組むショルツとは頻繁に話し合って、プレーしてきた。心がけていたのは、ドリブルでぐんぐん持ち上がるデンマーク人の持ち味を生かすこと。負け試合を振り返ると、ショルツの個性が消えていることも多かったという。
一方、岩波が得意とするロングボールを有効活用する試合では、相棒からすぐパスをもらい、出し手の役割を担った。
「お互いの良さをうまく出せるようにしていました」
1年を通して見ると、守備面での働きぶりも光ったところはある。シーズン終盤に失点を重ねたが、一時はリーグ最少失点を誇った。
目を引いたのは、要所で体を張ったシュートブロック。同じセンターバックの知念哲矢も「相手のシュートをことごとく体に当てられるのはすごい」と舌を巻くほど。
偶然でもなければ、気持ちだけでもない。ボールホルダーへの寄せの速さに加えて、シュートコースの読み、さらにはGKと密に連係を取っていた。
「ひとりで守っているわけではありません。僕はGKが予測しにしくいファーサイド側ポストの延長線上を消していました。GKひとりでゴールマウスすべてをカバーできないので、協力して守っています。
あと意識しているのは、股下を通されないこと。GKにとって死角になりますからね。相手シューターの選択肢を減らすことが大事です」
そして、手応えを感じているのは自らの得点。3月2日の川崎フロンターレ戦、9月3日の鹿島アントラーズ戦はともにニアサイドに入り込み、会心のヘッドでゴール。11月5日のアビスパ福岡戦では、磨きをかけてきた右足で渾身の一発を叩き込んでいる。
「3点ともすべて狙い通りでしたし、印象深いです。特に最終節の得点は、プロキャリアのなかでもベストゴール。自分の特長をあのような形で出せたのは良かった」
まさにトレーニングのたまもの。試合前日は決まってミドルシュートを打ち込み、イメージを膨らませていたのだ。
周囲に「その練習をして意味があるのか」と冷やかされることもあったが、ひたすら続けてきたという。
「やはり、練習は嘘をつきません。みんなにも証明できたと思います」
今季の公式戦はすべて終えたばかりではあるが、すでに気持ちは来季に向いている。
リーグ開幕前の2月には、ACL決勝が開催予定。日程変更の可能性もあるものの、準備は整えておく必要がある。
マシエイ スコルツァ新監督のもと、チームは新たなスタートを切るが、待ちわびた大舞台では勝つことしか考えていない。
「2019年のACL決勝で、なす術なく負けた悔しさを忘れたことはないです。プロになって数多くの負け試合を経験してきましたが、あれほどまでに歯が立たなかったことはない。あの借りは、同じ舞台でしか返せないと思っています。
優勝したい気持ちは、ほかの誰よりもきっと強いです。レッズのACLといえば、2007年、2017年の歓喜が思い出に残っていると思いますが、2023年のファイナルも記憶に残る一戦にしたい。アジアのタイトルを取って、新たなシーズンをスタートさせます」
悔しさはもう十分、糧にしてきた。6年目は、笑って始めるつもりだ。
(取材・文/杉園昌之)