走って、走って、また走る。浦和レッズのアレックス シャルクは、前線で汗をかくことをまったくいとわない。
スイスのセルヴェットFCから完全移籍で加入し、チームに合流して約1カ月あまり。すっかり順応してきた。
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)では3試合に出場し、計3ゴールをマーク。4月中旬からタイのホテルで約半月、チームメイトたちと長い時間をともに過ごしたこともプラスに働いているという。
「ACLはタイミングとして良かった。一緒にプレーする時間はもちろんのこと、試合後も宿泊先に缶詰めだったこともあり、お互いをよく知るいい機会になりました。ここからさらに相互理解を深めていきたいです」
5月8日の柏レイソル戦では1トップとして、Jリーグで初先発。得点こそなかったものの、好連係から何度もゴールを脅かした。
前半に江坂任のクロスを頭で合わせた場面は、トレーニングから密にコミュニケーションを取ってきた賜物。後半、オフサイドで取り消された"幻のゴール"も平野佑一との関係性から生まれた形だという。
「僕がどのタイミングで、どこに走り込むのか、理解しようとしてくれています。試合前から話していたコンビネーションが試合でも出ました」
目を引くのは何度でも動き直し、守備になっても足を止めない活動量。相手の裏に抜け出したかと思えば、次の場面では相手を追い回している。
柏戦では81分に退きながらもスプリント回数はチーム最多の27回。コンディションは100%の状態に近く、まだまだ走れると意欲的だ。
FWとして点を取り、決定機を演出することに自信を持っているが、根幹にはハードワークがある。
「自分の中では、欠かせない要素です。僕が育ったオランダのNACブレダ(現2部リーグ)というクラブは、情熱と強いメンタリティーを持ってプレーすることを重要視していました。育成組織時代に徹底して叩き込まれたので」
オランダの年代別代表(U-19、U-21)に招集されたときにあらためて感じた。トップレベルの中で違いを見いだすには、チームのために懸命に走り続ける必要があると。
数多くの世界的なタレントを輩出してきたオランダでプロ人生をスタートさせた男はしみじみと話す。
「素晴らしいポテンシャルを持っていても、それだけでは難しい。かつて自分よりもセンスを持っていた天才が、華々しいプロキャリアを築けていない現実も知っています」
キャリアのターニングポイントは23歳の秋。2015年10月、スコットランドのロス・カウンティに移籍し、自らがプロとして生きていく術を確信した。毎試合、100%のエネルギーを使い、闘志をむき出しにして戦うことで高く評価されたのだ。
「スコティッシュ・プレミアシップは、フィジカルと強度がすべてと言ってもいいくらいでした。チームにも、ファン・サポーターにも、僕が死力を尽くして戦えば、戦うほど、感謝されました。スコットランドでプロフットボーラーとしてのスタイルが確立されたようなものです。“ハードワーク=成功”のマインドを持つようになりました」
英国の伝統的な4-4-2システムのなかで、セカンドストライカーとしての価値を見いだすこともできた。
長身のセンターフォワードとコンビを組み、前線で誰よりも動き回ってゴールに絡んだ。闇雲に走っていたわけではない。容赦ない肉弾戦が繰り広げられるリーグで、171cmのFWが生き残っていくためには、ボックス内での動きに工夫を凝らす必要もあった。
参考にしたのは、同じような体格の元アルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロと元スペイン代表FWダビド・ビジャ。
「ファーストタッチの置きどころ、GKとの1対1に持ち込むまでの流れ、エリア内での緩急をつけた動きなど、どれもこれもお手本にしていました。僕が元イングランド代表の長身FWピーター・クラウチ(201cm)をマネにしても、同じようなプレーはできませんからね」
スコットランドでは国内カップを制し、自身初タイトルも獲得。2017-18シーズンにはキャリアハイの11ゴールを記録するなど、充実した3シーズンを過ごした。
「自分にマッチしていたと思いますし、自分を見つめ直すこともできました。フィジカル能力をより向上させることができたと思っています」
そして、経験を重ねるごとにオリジナルのスタイルに磨きをかけた。
1シーズンに20ゴール以上稼ぎ出すような点取り屋ではないことは自覚している。それでも、ボールに食らいつく執念は誰にも負けないと自負しており、闘犬の異名を取った元オランダ代表のボランチに近い感覚を持っているという。
シャルクはアグエロでもなければ、ビジャでもない。
「僕は前線でプレーしていますが、エドガー・ダービッツと同じようなファイティングスピリットを持ってプレーしています」
今年8月で30歳を迎えるファイターは、鋭い目をぎらぎらさせる。
ヨーロッパから遠く離れた日本でのチャレンジを選んだのも、野心的なプロジェクトを進めるレッズで多くのトロフィーを掲げ、新たな成功をつかむためである。
「僕はここで成し遂げないといけないことがあります」
真っ赤に染まる埼玉スタジアムでのデビュー戦を心待ちにしている。13日のサンフレッチェ広島戦では、あふれる闘志をみなぎらせ、勝利をもぎ取りにいく。
《ハードワークに勝る才能なし》
浦和でも自らの哲学が正しいことを証明するつもりだ。
(取材・文/杉園昌之)
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