『味方にアシストして1-0で勝つより、俺がハットトリックを決めて3-4で負けるほうが、気持ちがいい』
「チームが勝利することがすべてなので、絶対に良くない考えだと分かったうえで話しますけど、『自分がアシストして勝つよりも、自分が点を取ること』に重きを置く。そうした思考があるからこそ、対戦相手や見ている人が想像できないようなプレーができるとも思います。
「あえて『交代させられた』という表現を用いますけど、どの試合においても途中交代させられてうれしかった試合は一度もありません。サッカー選手として90分間、試合に出たいというおもいが前提としてあるし、そのために1週間をかけて準備してきていますから。だから、当然、悔しさは覚えました。
「神戸戦の後半は、オラ(ソルバッケン)選手が右サイドに移っていました。彼のプレーを客観的に見ていて、そんなにポジショニングにこだわりすぎなくてもいいんだなということが見えてきました。自分は、チームとして求められているライン間での駆け引きをずっと繰り返していた。でも、オラ選手は必ずしも、それだけにとらわれていなかった。
「全員が全員、自由にプレーをしてしまうと、チームとしてのバランスが崩れることになる。極端な表現をすると、左が自由ならば、右は規律を守ろうとしていたところがありましたけど、ときには自分も、自分がやりたいプレーをすることも必要だと、神戸戦の後半、ベンチから眺めて思ったんです」
「開幕当初は、まずは自分を見せるというか、前田直輝ってこんなプレーヤーだということを示すために、自分の特長を出そうと、エゴイストな部分を出していました。それで自身の結果自体は少しついてきた一方で、チームとしてはなかなか結果が出なかった」
「チームが勝てず、結果が出ない状況が続いたときに、自分が浦和レッズの選手として認められたいからといって、自分のエゴを出すだけでは、チームは勝てないと考えました。チームがより機能するために、自分がドリブルで突っかけるよりも、パスではたいたほうがいいのかなとかを考えはじめて、自分自身のプレーにも迷いが生じた時期を過ごして……」
「そうやって試行錯誤を続けていくうちに、チームとしての形はある程度、できてきて、あとは最後のところ、ゴール前でのクオリティーが課題になるところまでできてきました。だから、自分もチームのために、ゴールよりもアシストしたいと思う時期もあって……でも、自分はゴール前でのクオリティーを求められるポジションを任されているだけに、それって結局、自分らしくねえなって思ったんですよね」
「浦和レッズへの加入を決めたひとつも、チームのことばかりを考えすぎている自分から、もう一度、自分自身を輝かせたかったからだったんです。グランパスでは、チームの中でも中心になれている感覚を得られていて、周りも、俺が『右に進んでみよう』と言えば、『やってみるか』と賛同してくれる環境がありました。街にも、クラブにも、チームにも慣れてしまった自分を変えたくて、一から自分をアピールする、一からチャレンジする環境に身を置きたくて決断したんです」
「俺、こういうポジションでボールを受けてみたいんだけど、どう?」
「ここではパスを出さずに仕掛けたいと思っているんだけど、どう思う?」
「俺、もうちょっとボールに触りたいんだ」
「ボールを受けさえすれば、自分のプレーに自信はあるので、ドリブルで仕掛けようが、ワンタッチではたいて、ゴール前に潜り込んでいこうが、ゴールに向かうプレーというのは変わらない。だから、ボールを受ける場所、位置というのをずっと探していたんです」
「ボールを受ける前にアクションをしてから、ボールを受けてしまうと、右サイドでは少し窮屈感があったのですが、背後や裏だけでなく、足もとでも受けるようにしたら、ボールを受ける前のストレスがほとんどなくなりました。それによって、今シーズン開幕当初のように、ボールを受けてから自分が勝負することで、チームに貢献できる実感を得られるようになりました。まだ1試合ですけどね」
「ちょっと、自分のなかで殻を破りかけている感覚があります。チームのためにプレーしたいというおもいは常に持ちつつ、マインドのところ、根っ子には、やっぱり自分がゴールを決めたいという気持ちを常に持っていたいと思っています」
「チームが勝つためにプレーするという前提はありつつも、自分がゴールを決められるチャンスがあるのにパスを選択するのではなく、自分でゴールを取りたいというおもいを持ち続けたい。その意識があるからこそ、パスも生きてくると思うので。何より、ゴールに向かわないヤツって相手にとって怖くないですからね」
「しかも、埼玉スタジアムでまだゴールを決められていないんですよね。あの声援は、力強いとか、心強いとかありきたりな言葉では言い表せない。あの存在、あの声で走れる何十分かがありますし、足が出る一歩がある。だからこそ、自分が(ゴールを)決めて、ファン・サポーターのみなさんとよろこびを分かち合いたいですね」
(取材・文/原田大輔)