リーグでの連敗に、前田直輝は自分に矢印を向けていた。
0-1で敗れた明治安田J1リーグ第8節の柏レイソル戦後には、こう言って悔しさを滲ませた。
「自分にパスを入れてもらっているので、その形がどうであれ、自分の足元にボールが来たら、仕事をしなければいけないのがウインガーだと思っています。それを僕は自分にも求めていますし、さらに成長しなければならないと思っています。もちろん、いい形でパスを受けられるのが一番ですけど、それができなかったときに、どこでタメをつくるのか、どこで時間をつくるのかも含め、一つひとつのプレーにこだわっていきたい。
例えば、石原(広教)選手がヘディングで競り勝って、セカンドボールが自分のところにこぼれてきたときに、ターンをして相手にボールを奪われてしまった場面がありましたが、そこではタメをつくるべきだったかもしれない。もしくは、仕掛ける姿勢を見せたのであれば、相手をかわし切らなければいけなかったと思っています」
同じく0-1で敗れた第9節のガンバ大阪戦後は、こう言って唇を噛みしめた。
「自分がクロスやシュートで終わる場面が、明らかに少ないと思っています。サイドに張っているだけでは、相手に対策されやすいのは目に見えているので、内側にポジションを取ってみたり、サイドバックである石原選手を高い位置に上げてみたり、自分なりに試行錯誤しているつもりです。いろいろと試していますが、結果が出ていない以上、プレーのクオリティーにこだわり続けていきたいと思います」
本人は「工夫と迷いは紙一重」と、厳しい言葉も口にしたが、試行錯誤は決して徒労ではなく、確実に答えに辿り着きつつある。
彼が語ってくれたプレーを整理していくと、2つのポイントが見えてくるからだ。
「サイドバックやインサイドハーフとの関係性を含め、いい距離感を保ちながら、3人で崩していくイメージを持つのと同時に、自分がいる右サイドでのプレーのクオリティーを上げていければと考えています。
人が代われば、攻撃の形も変わります。そこにヒントみたいなものは隠れていると思いますし、自分がいるサイドではどんな攻撃の形がいいのかを、そのときどきで絡む3人で話し合い、見つけていければと思っています。そこで阿吽の呼吸が築けるようになっていけば、チームのストロングポイントになっていくと思うので」
ひとつ目はサイドバックやインサイドハーフとの連動であり、連係である。もうひとつは、やはり自らが仕掛ける姿勢だった。
「僕の本来の特長は、何もないところからチャンスを作り出せるところだと思っているので、そこは目指し続けたい。それに自分は、器用なプレーができる選手ではないので、仕掛けなければ、何も始まらないとすら思っています」
4月24日に行われたYBCルヴァンカップのガイナーレ鳥取戦は、まるでその答え合わせを見せてもらったかのようだった。
12分、武田英寿が先制点を決めた場面では、前田は前を向いてボールを受けると、自ら仕掛けるのではなく、オーバーラップしてきた石原へのパスを選択した。石原のラストパスを走り込んだ武田が決めたように、右サイドの3人で崩してゴールを奪ってみせた。
また、17分にチアゴ サンタナが追加点を決めた場面では、前田が自らペナルティーエリア内で仕掛けたことにより、PKを獲得した。
彼自身が挙げたふたつのポイントを、プレーで体現して見せたのである。
試行錯誤を続けてきた前田は、こうも語っていた。
「時間、場面、状況によって自分の形を変えていければな、と。それによってゴールやアシストといった結果を重ねていくことで、より自分のプレーも明確になっていくと思っています。だからこそ、結果にこだわりたい」
鳥取戦では、自らのゴールやアシストといった目に見える数字は残せなかったかもしれない。だが、そのプレーは確実に、ゴールに、勝利に直結している。
「今は迷いがないと言ったら嘘になりますけど、心の奥底では、自分のよさはここだというところはブレていません」
自らをゼロからイチを作り出せる存在と語る前田は、結果にこだわることで前進していく。その原風景は、体調不良により欠場を余儀なくされ、スタンドから試合を眺めた東京ヴェルディ戦(第2節)にあった。
「外から試合を見ていたときに、誰かが相手をひとり剥がすことができたら、まったく違う展開になるだろうと思って眺めていました」
前田は仕掛け続けることで、活路を、ゴールを、そして勝利を呼び込む。
(取材・文/原田大輔)
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