長野美術専門学校(長野市)の公認サークル「美術研究部」の学生たちが、北信地域で開く地域イベントを中心に「似顔絵屋」を出店している。自分の前の椅子に座った客と会話しながら、ささっと色鉛筆やペンを走らせる。完成した品を手にした客の笑顔を見て、学生も笑顔に。得意の技で幅広い世代の人に喜んでもらえる楽しさや、客の思いをくみ取り作品を完成させるデザイナーやイラストレーターのような仕事を体感する機会にもなっている。
■思いくみ取り、内面も表現
「どの色で描こうか?」「かっこいい眉毛だね」。3月28、29日、長野市中御所岡田町の一帯で開かれた子ども向けイベント。クイズラリーや射的などの催しに加えて、長野美術専門学校美術研究部の学生たちが「似顔絵屋」のブースを出店した。
受付や呼び込みの部員のほかに、描き手として、イラストレーションなどを学んでいる4人の学生が参加。親子連れが来場すると、「似顔絵屋やってます! 有料ですが、いいですか?」と声をかける。学生の画風は人により、写実的なものやアニメ風などさまざまで、客はサンプルを見て、描いてほしい人を決める。
緊張気味の子どもたちが席に座ると、学生たちは「どの色が好き? じゃあ、その色を使って描くね」と話しかけながら、画用紙に向かう。色鉛筆やカラフルなマーカー、赤茶色のボールペンのほか、シャープペンシル1本のみを使うという学生もいる。
言葉少なに集中して描く学生もいれば、子どもの趣味や小学校の教科書の話題で盛り上がる人も。子どもの顔の魅力的なところを褒めていた太田優海(ゆうみ)(26)さんは、「下を向いてしまう子でも、話すことで顔を上げてくれる」と言う。「普段は関わらない世代の世界を知るのが楽しい」と話す学生もいた。
会話の中で知った客の好きなものを、絵に取り込むことも。客の内面を表現することができ、喜ばれるという。
似顔絵は1枚10~20分くらいで完成。2日間で描いた人は計約80人にのぼった。インターナショナルスクールオブ長野小学部3年生の村松琉斗(りゅうと)さん(8)は、アニメキャラクター風の絵柄を注文。完成すると「そっくりだね! すごい」と驚いた。
6歳の娘を少女漫画風に描いてもらった丸山彩美さん(35)は、「娘も絵が好き。専門で学ぶ人が目の前で描いてくれて、勉強にもなったと思う」と話した。
「似顔絵屋」の活動は、部が発足する前の、遅くも2018年には開始。今は、年5回ほど出店する。もともとは、部の活動で必要となる画材や額縁などを買う費用に充てようと始めた。価格は、今回のような子ども向けなら1枚500円、大人が多い催しのときは「お気持ちで」。2019年の台風19号の水害で被災した人を励まそうと無料で開催したこともある。
ただ、活動費以上に、得るものは大きい。初参加の宮川陽花(ほのか)さん(19)は「思った以上に自分の絵で喜んでもらえてうれしい」とほほ笑む。ほかにも、複数の学生が「要望をくみ取って時間内に仕上げるのは、イラストレーターやデザイナーに通じる。将来の練習になっている」と語った。
■描くこつは? 顔をよく見る、たくさん練習して上達
あなたも似顔絵を描いてみませんか―。 美術研究部前代表の小沢恭子さん(20)と新代表の林凜さん(20)に描くときのこつを聞いた。
「まずは顔をよく見る」と林さん。最初に相手の顔の特徴をつかみ取る。描いている途中は会話するのが林さん流。話すときの表情や会話の内容から似顔絵の表情を決めていく。
林さんは、顔の中の魅力的な部分を強調するタイプ。「目と鼻の距離の長さとか、目がぱっちりしているとかを強調すると、似せられる」と話す。小沢さんは、客が特徴をコンプレックスに感じていることもあるので、強調するのは少し慎重にするという。「眉、目、輪郭、髪形の特徴をとらえて、描くようにしています」
上達のこつは「たくさん練習すること」と2人。部員同士でお互いに描き合うほか、林さんはインターネット上の人物の写真を見て練習している。小沢さんは楽器の弾き語りなどが趣味。「自分の出番を待つ間、ほかの人が歌っている姿を描いていたら、自然と上達した」と話している。
外部リンク