これは数年前のお話です。
私の名前はヒトミ。平日はフルタイムで働く主婦。中一の娘ユナと、小六の息子ダイチというふたりの子どもがいます。義実家は同じ県内にあり高速で一時間ほどの距離です。
今までお盆休みは毎年義実家に帰省していましたが、今年は予定がいっぱい。ユナはチアの特別レッスン、ダイチはスポ少サッカーの練習試合があります。
今年のお盆は帰省を見送ると義母に電話をしました。
もう言っていることが無茶苦茶です。「来るな」と言われたから行かなかったのに、それで怒られるなんて。いったいどうすればいいのでしょう。
義両親には、実はもうひとり息子がいます。夫にとっての兄にあたる人なのですが、十代の頃から義両親ととても不仲だったらしく、就職と同時に音信不通になってしまったとのことです。
資産がない、そのうえ長男にも見放されている。残ったのは私たち次男夫婦だけ。
どう考えても老後は私たちの世話にならなくてはいけないのでは……? そのためにも関係は良好にしておいたほうがいいはずよね。なのにどうしてあんな横柄な態度をとるんだろう?
つくづく義両親の考えていることがわからない……と、途方にくれてしまいました。
◆義母の気持ち
私の名前は昭子。夫の和夫と年金で細々と、けれども平和に暮らしています。
しかしこの夏、お盆だというのに帰省しなかった息子夫婦に大変憤っています。なんでも孫たちの行事やら自治会の用事やらで、すべて埋まってしまったというのですが、そんなことを何の臆面もなく言える息子夫婦の神経を疑ってしまいます。
こちらは親です。目上の人間です。何よりも私たちを優先するのが当たり前です。きっと孫たちの行事を言い訳にして、嫁であるヒトミさんが帰省をサボろうとでも言ったのでしょう。情けないことです。
……違う、期待していた返事はそうじゃない。
「待ってくれよ、俺たちが悪かった! これからは何があっても父さんと母さんを最優先するから! ごめんよ、許してくれよ……!」
こうでしょう? なのに、どうしてそんなに冷静なの? どうして謝らずに電話を切るの?
私たちが若い頃は、親たちを……目上の人たちを大切にして、敬って、いつもご機嫌を窺いながら行動したものです。それなのに、ソウタもヒトミさんもなんて身勝手な……!
こうなったら私たちだってそれ相応の態度を取るつもりです。もう本当に、親子の縁を切ってやろうと思います……!
◆息子(夫)の気持ち
俺の名前はソウタ。会社員です。妻ヒトミと、娘と息子の四人家族です。今年のお盆、帰省しなかったことで母と口論になってしまいました。
父も母も昔から短気で、俺や兄貴は子どもの頃からいつも怒られていました。高圧的で自己中。周りの人間が……とくに子どもたちが自分に従わないと気が済まない人たちでした。
今までずっと我慢してきたけれど、両親は歳をとるにつれてその気質がどんどんエスカレートしていき……ついにはヒトミも巻き込んでトラブルになってしまいました。
その結果「親子の縁を切る」と激昂されたので、もういいやと思い、それ以来実家と関わるのをやめました。
母から「ごめんなさい」という言葉を聞くのは、生まれて初めてだったかもしれません。これをきっかけに少しずつ、両親と俺、そしてヒトミや子どもたちとの関係も変わっていけたらいいなと思っています。