ミヒャエル・スキッベ監督は、彼の名前を口にすることに躊躇がない。
ボールを追いかけ、猛然とスピードアップする棚田。トレーニングは常に全力(3月30日撮影)
例えば、鮎川峻が見事なゴールを決めたFC東京戦(3月12日)の翌週、その鮎川についてのコメントを求めた時のことだ。
「鮎川は才能に満ちたFWだ。ただウチには彼と同じくらい才能に溢れるFW=棚田遼がいる。彼にはゴールに向かう姿勢と技術がある」
1つのセッションが終わり、若者は思わず笑顔に。しかしまだまだ、ハードなトレーニングは続く(3月30日撮影)
今季はまだ1度も出場機会のないルーキーについて、聞かれもしないのに指揮官は言及した。ちなみに、指揮官が棚田に言及し評価したことは1度や2度ではない。
また、塩谷司は棚田についてこう評価する。
「まだまだ荒削りだし、判断のところも含めてミスも多い。ただ、ボールを持って前を向いた時の仕掛けのスピードだったり、大胆さだったりは、彼の良さ。試合で見てみたいなと思う選手の1人です」
ボールポゼッションのトレーニングで闘志剝き出しに藤井智也にチャレンジ。サッカーにおいて物怖じすることは全くない(3月30日撮影)
もっとも、彼の力は昨年のルヴァンカップ、「高校生デビュー」を果たした横浜FM戦で証明済みだ。今季のキャンプではプロのスピードやプレッシャーの厳しさに苦労したが、慣れるのも早かった。練習で見せる堂々とした佇まいと自信に満ちた仕掛けは、とてもルーキーとは思えない。
「監督が自分の名前を出してくれた記事を見て、すごく嬉しかったです」
クロスからのシュートトレーニング。棚田はニアに走り込み、永井龍のゴールを動きで助けた。この「リョウ+リョウ」のコンビを試合で見たい(3月30日撮影)
人なつっこい笑顔で話す彼の表情は、まだサッカー少年の面影。しかし、プレーは大胆だ。
紅白戦でもレギュラーを相手に全く臆することなくドリブルを仕掛け、ゴールに向かって思い切り足を振る。山口との練習試合 (3月14日)では1得点1アシスト、3月29日の紅白戦では2得点。特にGKの頭上を抜いて決めたループシュートはアートの香りが満載。「ああいうシュートが好き」と本人も納得のゴールだった。
シュートトレーニングで目標ゴール数に達せず、その代償としてフィールドプレーヤーは30回の腕立て伏せ。この時、「おい棚田、棚田っ」と川浪吾郎が叫びながら近づいた。そして、ルーキーの側につきっきりで彼の腕立て伏せを笑顔で監視する。川浪は棚田がとても可愛いのか、トレーニングでもよく声をかけている(3月30日撮影)
「今の広島は、PA内での仕掛けが足りないなと感じています。PA内で仕掛けてシュートを決めて、チームを助けたい」
18歳のストライカーが語るゴールへの情熱。現実になりそうな感触は、確かにある。
棚田遼(たなだ・りょう)
2003年6月19日生まれ。広島県出身。広島ジュニアユース時代の2018年、日本クラブユース選手権(U-15)で優勝。広島ユースでは昨年の高円宮杯プレミアリーグWESTでチームトップの10得点(18試合出場)を記録して優勝に大きく貢献した。前髪が長く伸びた髪型を気に入っていて、「ユースの時からこんな感じです。前髪をかき上げながらプレーするのに慣れているので」と笑う。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】