新型コロナウイルス感染症で、私たちの生活は一変した。マスクが手放せなくなり、通勤を控え在宅で仕事をする人が増え、顔や首まわりの筋肉の運動不足によるコリ、姿勢の悪化などが以前より問題視されている。
また、コロナ禍では常に不安や恐怖、ストレスを感じるため、セロトニンがいつも以上に消費されてしまう。片頭痛を抑えるために働くセロトニンが不足しがちだ。
さらに、地球温暖化の影響もあり、台風やゲリラ豪雨などの気象現象も激烈化している。
こうした生活環境の変化によって、頭痛に悩む人が増加中だ。マスク頭痛やテレワーク頭痛、天気痛などと呼ばれる「いまどき頭痛」が増え、頭痛の悩みもさらに複雑になった。
「今、自分に起きている頭痛は、何が原因で、どうやって起きるのか。緊張型頭痛と片頭痛のどちらに近いのかなどを知っておきましょう。そうすれば、痛みを感じたとき、どう対処すればよいか、その糸口がつかめると思います」
そう話すのは、日本初の頭痛専門クリニックを開設した頭痛専門医の丹羽潔先生だ。
頭痛には、わかっているだけで367種類あるそう。なかでも、首や肩のコリなどから起きる「緊張型頭痛」は患者数が約3000万人で、頭を動かすと痛い「片頭痛」が約1000万人。これら二大頭痛で、全頭痛患者の9割を超える。
「二大頭痛は、起きるメカニズムや特徴が違い、起きたときの対処法は真逆です。だから自分の頭痛がどちらかをわかっていないと、対処法を間違えて、悪化させてしまうこともあるでしょう」
そこで丹羽先生が「今どき頭痛」の原因と対策を教えてくれた。
【マスク頭痛】二酸化炭素とコリで両方の頭痛を併発する
マスク内に自分が吐いた二酸化炭素がたまり、その二酸化炭素の多い空気をまた吸うことで、脳の血管が拡張して片頭痛が起きやすい。また、マスクによる圧迫と、表情筋を使わないことで顔コリ、首コリから緊張型頭痛も起きやすく、マスク頭痛は両方の要素がある。対処法は、可能なときはマスクを外して深呼吸し、表情筋を動かすこと。
【テレワーク頭痛】猫背、眼精疲労……PC環境の悪さが要因
自宅のリビングやダイニングは仕事に適した環境とはいえない。長時間のPC作業で猫背になったり、頸椎がまっすぐになるストレートネックになったりすると、緊張型頭痛の引き金になる。また、眼精疲労から目のまわりの眼輪筋など顔や首・肩の筋肉が収縮するのも、頭痛を誘う。ときどきPCから離れ、ストレッチなど姿勢を正す時間を持とう。
【光(ブルーライト)による頭痛】PCやスマホの光はカットすること
片頭痛のさまざまな誘因の1つに、光がある。特に最近多いのが、PCやスマホが発するブルーライトによる片頭痛だ。対処法は、長時間連続してのPC作業を避けること、また、ブルーライトをカットする眼鏡があるので活用するのもよいだろう。眼精疲労から緊張型頭痛が起きることもあるので、注意したい。
【天気痛】気圧の変化に影響されないために自律神経を整えて
気候や気圧の変化が引き起こすのが天気痛だ。持続する低気圧よりも、気圧が下がっていく途中で起きやすい。また、影響が大きいものから高湿度 → 低気圧 → 高温で、脳の血管が拡張して片頭痛を引き起こす。対処は自律神経を整えること。寝すぎも寝不足もNGで、休日でも朝型生活を心がけよう。
【睡眠時無呼吸症候群による頭痛】呼吸が浅く、眠れないストレスを解消する
睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりして、低酸素状態を招き、片頭痛を誘発する。また、睡眠障害のストレスからも片頭痛が起きやすい。治療は、マウスピースの装着、装置で加圧した空気を送り込み気道を広げるなどがある。適切に治療すれば、睡眠由来の頭痛も軽快するだろう。
【熱中症による頭痛】体温調節ができずに起こる。急ぎ対処を
熱中症は、体温の調節ができずに熱がこもること。熱中症の頭痛は中等度以上でしか起きないため、急いで対応を。対処は基本的な熱中症対策と同じ、体を冷やしてこまめに水分補給。片頭痛に似ているが、メカニズムが違うので片頭痛の薬は効かない。
【後頭神経痛(第4の頭痛)】テレワーク時の無理な姿勢や気圧に由来
ピリピリした痛みが5~10秒、長くても1分以下で何度も繰り返す。緊張型頭痛、片頭痛、激しい痛みの群発頭痛に次ぐ、“第4の頭痛”で、コロナ禍以降、患者数が10倍以上に増加した。首をひねって書類などを見るゆがんだ姿勢や、特に雨の前日など気圧の変化も原因といわれる。
【薬物乱用頭痛】鎮痛薬の飲みすぎがさらなる頭痛を呼ぶ
頭痛持ちの人が、鎮痛薬を月に10日以上(薬によっては15日以上)、3カ月を超えて服用することで発症。頭が痛いから薬を飲み、それでさらに頭が痛くなる悪循環に陥る。朝起きぬけから痛いのが特徴。治すには「薬を服用しない」こと。専門医に相談を。
生活様式を見直して、「いまどき頭痛」への正しい対処を。
【PROFILE】
丹羽潔
医学博士、日本頭痛学会認定専門医。『日本初の頭痛専門クリニックが教える 最新頭痛の治し方大全』(扶桑社)など著書多数