「ヒロイン・暢子を唯一叱れる役として、SNSでは『よく言った!』との声が殺到。作中の登場人物のうち、数少ない“良心”といわれています」(テレビ誌ライター)
現在放送中の連続テレビ小説『ちむどんどん』(NHK総合)。そこで、イタリアンレストランのオーナー・大城房子役を好演しているのが原田美枝子(63)だ。
「黒島結菜演じる、沖縄から上京したヒロイン・暢子は礼儀に欠ける一面が。その兄・賢秀(竜星涼)は金遣いが荒く、母の優子(仲間由紀恵)はお人よしすぎて子どもを叱れない……と、ヒロイン一家は型破りな面々ばかり。一部の視聴者からは『主要キャストに共感できない』と戸惑いの声まで聞こえていました」(前出のライター)
同作の視聴率は初週で17%を記録して以降、下降線をたどり、一時は13%台まで下落した。
「だが、房子が登場するとともに回復し、過去最高視聴率17.2%を記録した5月27日は、暢子と房子がペペロンチーノで料理対決をして房子が圧勝する回でした。まさに原田さんの“孤軍奮闘”といえるでしょう」(前出のライター)
6月7日放送回で暢子の親戚であると判明した房子は、いわば暢子の“東京の母”。そんな房子役を演じる原田の実母は、10年近く認知症を患っていた――。原田は2年前のインタビューで《90歳になる母に認知症の症状が表れ始めたのは、80を過ぎた頃です》(『婦人公論』’20年4月14日号)と明かしている。原田家の知人は言う。
「美枝子さんのお父様は食道がんで入退院を繰り返しましたが、『最後は家にいたい』と、母・ヒサ子さんと2人で住む家に戻りました。ところが、’14年にお父様が他界。一人暮らしをしていたヒサ子さんの認知症が進み、介護施設で生活するようになりました。美枝子さんが中心となり、息子さんや長女でミュージシャンの優河さん(30)、そして次女で女優の石橋静河さん(27)ら家族が一丸となってサポートしていました」
原田は長年の介護生活のなかで、もっとも印象深い出来事をインタビューでこう明かしている。
《父が亡くなって1年くらいたった頃、母は脈拍が弱くなり、緊急入院。2日ほど意識が朦朧としていましたが、症状が落ち着いたら突然、『私ね、15の時から、女優やってるの』と言い出したのです。正直、びっくりしました。15から女優をやっているのは、母ではなく、私ですから》(前出『婦人公論』)
《私はわがままで傲慢だったので、自分の人生を生きるのに必死で親の気持ちなんて知る由もありませんでした。けれども母の中にそういう気持ちがあったのかもしれないということに気づいたときに心底驚いて、ならば母の夢を叶えられないだろうかと考えたんです》(『ゆうゆう』’20年5月号)
そして原田は、母の“女優宣言”を機に、母が主演を務める24分のドキュメンタリー映画を製作&撮影&監督したのだ。題名は、『女優 原田ヒサ子』。母の名を冠した同作は、原田の子供たちも製作に携わり、’20年3月に公開された。
「ヒサ子さんはパートで働きながら美枝子さんをはじめ3人の子供を育て上げました。しかし原田さんは女優業に邁進するあまり、なにかと自分を心配するヒサ子さんと対立することもあったそうです。さらに美枝子さんに3人の子供が生まれると、育児と仕事で手いっぱいで、ヒサ子さんと関わる時間があまりなかったといいます。
しかし介護や映画製作を通して、美枝子さんは再び、ヒサ子さんと真正面から向き合う時間が。劇中では、中学2年生の美枝子さんにヒサ子さんが作ってくれたワンピースが登場。美枝子さんは『初めてのオーディションにも着ていった、お気に入りです』と笑顔で話していました」(映画関係者)
■認知症の母親は孫たちの音楽や出演作品を楽しみに――
また、娘・静河らの協力は原田にとって大きな支えとなったそう。
「コロナ禍前、美枝子さんはヒサ子さんの面会によく子供たちも連れていきました。3人が介護に協力的なことに感謝していましたね。ヒサ子さんは美枝子さんとともに、孫である優河さんの音楽を聴いたり、静河さんの出演作を見る時間が大好きだったそうです」(前出・原田家の知人)
家族での“共闘介護”や映画製作を通して、ヒサ子さんとの新たな思い出を作った原田。しかし――。
「実はヒサ子さんは1年ほど前に亡くなったんです。安らかな最期だったと聞いています」(前出・原田家の知人)
映画の公開から1年余りでヒサ子さんを看取った原田――。「株式会社ねこの手」代表で介護コンサルタントの伊藤亜記さんは「映画製作はヒサ子さんにとっても、残されたご家族にとってもプラスになっているはず」と語り、こう続ける。
「介護される側にとって“目的を持つ”ということは、とても大事なこと。『15歳から女優をやっている』と言われても普通の人なら『何言っているの?』となるところを、原田さんは“女優になるという目的”を与える機会にしました。人間は、目的を持つことで生きる気力が湧いてくる生き物。お母様は最期まで前向きに、人生を駆け抜けたのではないでしょうか。
また記録に残したことで、孫世代に“親を育てた人の生きた過程”をつないでいくことができます。お互いに心残りなく人生の幕を閉じることが介護の理想であり、本当の親孝行だと思います。ご本人からご家族へ、そしてご家族からご本人への“最後のギフト”のように感じます」
『ちむどんどん』で“東京の母”となる前に、最愛の母と離別していた原田。房子役は家族の絆を再確認したうえでの熱演なのだろう。また、ヒサ子さんが新たにつないだ縁もあった。
「9月に公開予定の映画『百花』で原田さんは菅田将暉さんとW主演を務めます。原田さんは菅田さん演じる息子を女手一つで育て上げた、認知症の母を演じたのです。このキャスティングは『女優 原田ヒサ子』が契機となりオファーされたものだそうです。すでに撮影は終了しており、原田さんは“魂を込めて作った作品になった”と感極まっていました」(映画関係者)
原田、そして大河にも出演した静河らの活躍をヒサ子さんは天国から笑顔で見守っているはずだ。