(写真:産経新聞フォト)
爽やかな初夏の陽気に包まれた5月中旬の平日。都内にある歌舞伎の稽古場前に停車した車から現れたのは市川染五郎(17)。マスクをしていてもはっきりわかる切れ長な目と端正な顔立ちに、通りかかった人も思わず視線を向ける。
落ち着いた足取りで稽古場へ向かう染五郎だが、その姿には“退路を断った”潔さがあった――。
「お客さんを集められるのか不安はありますが、主役であろうが、脇役であろうが、心意気は変わらない」
19日に行われた、自身が主演を務める「六月大歌舞伎」の第二部『信康』の取材会でこう意気込んだ染五郎。
このところ、染五郎の快進撃が続いている。
「祖父の松本白鸚さん(79)と共演するということもあり、チケットの売れ行きは上々です。10代で歌舞伎座の主演を務めるのは極めて異例のこと。当時新之助だった市川海老蔵さん(44)以来26年ぶりですから、歌舞伎界が“次のスター”として大きな期待を寄せていることがうかがえます」(演劇関係者)
染五郎フィーバーは梨園の外でも!
「出演回は5週のみながら、NHK大河『鎌倉殿の13人』での源義高役での繊細な演技は大きな話題に。5月1日放送回で悲劇的な最期を迎えると、ネットでは“義高ロス”を訴える人が続出するほどでした。脚本家の三谷幸喜さんも染五郎さんを高く評価しており、出演オファーを検討しているテレビ局や映画会社も多数あるそうです」(テレビ局関係者)
着実にスターへの階段を上る染五郎。しかし、その裏ではプライベートで“悲壮な決断”をしていたという。ある歌舞伎関係者が明かす。
「染五郎さんは幼稚園から都内の有名私立大付属の一貫校に通っていたのですが、高校3年生への進級を前に中退したそうです」
■「勉強がなければもっとのびのび生きられるのに」
決断の背景にはブレイクの代償があったようだ。
「昨年公開のアニメ映画で声優に初挑戦し、モデル業もこなすなど、ここ数年で異業種の仕事が激増。『鎌倉殿』も高校に通いながら撮影に臨んでいました。そんな生活が続き、進級するための出席日数と成績に届かなくなり、留年が濃厚になったことで中退を決意したと聞いています」(前出・歌舞伎関係者)
あと1年で大学進学というところで長年通った一貫校を中退した染五郎。そこには彼の“弱点”が影響しているようで……。
「中学生になったころから、学業と芸事の両立に苦労していたようです。歌舞伎の演目について文献をあたって調べることは好きなようなのですが、インタビューで“好きな教科はない。全部嫌い”と断言するほど、学校の勉強が苦手。『信康』の取材会でも平然と『(信康が)僕と違うのは、頭がいいところですね(笑)』と話していました」(前出・演劇関係者)
筋金入りの勉強嫌いぶりを公言し続けてきた。
《歌舞伎のセリフを頭に入れるより、英単語を覚えるほうがずっと大変(笑)。テストの前は、お稽古の合間の時間を使って勉強しています》(『婦人公論』’18年1月23日号)
《勉強が世界になければもっとのびのび生きられるのにって思います》(『MORE』’18年12月号)
そんな染五郎に複雑な思いを抱いている“同志”がいるという。香川照之(56)の長男・市川團子(18)だ。
「幼いころから同じ一貫校に通っていたこともあって染五郎さんと團子さんはプライベートでも大の仲よし。團子さんは1学年上ですが、来年からまた同じ大学に通えることを楽しみにしていただけに、寂しい思いもあるといいます」(前出・歌舞伎関係者)
■「お芝居をすることがいちばん楽しい」
親友とのキャンパスライフを蹴ってまで中退を決意した染五郎だが、その原動力には、未来の歌舞伎界を背負って立つ覚悟があると、別の歌舞伎関係者は指摘する。
「染五郎さんは松本金太郎として4歳で初めて舞台に立ったときから、歌舞伎に魅了されています。幼少期からインタビューでも“お芝居をすることがいちばん楽しい”と言い続けるほど。
勉強は苦手ながら高校はきちんと卒業したいという思いもあったそうですが、歌舞伎役者として成長していくなかで、いちばん大切な時期でもあります。そこで、“芸事がおろそかになるくらいなら”と中退を決断したのでしょう。
父親の松本幸四郎さん(49)も染五郎さんの覚悟を聞いて、中退を承諾したといいます。6月の『信康』に向けて日々稽古をつけているそうです」(前出・歌舞伎関係者)
“芸事専念の誓い”には各方面で活躍する先輩たちからの影響もあるようで――。
「同じ学校の先輩でもある中村芝翫さん(56)は歌舞伎に専念するため高校には進学していませんし、海老蔵さんも芸能活動が忙しくなったことで、高校1年生のときに堀越学園へ転校しています。今の歌舞伎界に大きな影響を与える2人がそうした決断をしたことも、染五郎さんの背中を押したのではないでしょうか」(前出・演劇関係者)
最近、染五郎はこう語っている。
《いま、大人でも子どもでもありません。でもこの時期にしかできないこと、出せないことがある。それを大切にしたいんです》(『スポーツ報知』5月8日付)
高校を中退し、歌舞伎役者として生きていく覚悟を決めた染五郎。大人になった染五郎が切り開いていく歌舞伎界の未来が楽しみだ。