「結婚したらハワイでハネムーン。結婚20年目に海外ブランドの高級バッグを買って、50代で国産車からベンツに乗り換えるんだ」。かつては中間層でも、頑張れば手の届いた夢は円安地獄ではるか遠くにーー。
円相場はコロナ禍前の1ドル約106円(2019年8月平均)から、137円まで急落(8月22日)。140円台も目前に迫っている。円安はアベノミクスによる大規模な金融緩和の結果とみられているが、岸田首相は何ら有効な手を打たず放置の模様。
その結果、今までできていたことができなくなりつつあるという。
■海外旅行に行けない!
「ホテルの朝食が5000〜6000円、パンケーキ店に行けば1人2500円もする。もはやハワイは、日本人にとって気軽に行けるところではなくなりました」
そう語るのは、今年7月にハワイに行ったばかりの航空・旅行アナリストの鳥海高太朗さん。
「ここ1年ほどでも、物価自体が1割ほど上がっているうえに、この円安による影響で現地での支払額が、日本円に換算すると3割以上増えている感じです」
ハワイ州観光局によると、現在のオアフ島のホテル宿泊料は平均33247円。2002年には14280円だったから、この20年で約2万円も増えたことになる。以前から、アジアなど比較的物価が安い地域に好んで旅行してきた人も多いだろう。だが、今回の円安は、ドルだけでなく、全世界の通貨に対してのものだ。
「現地に行っても“割安感”はだいぶ薄れています。急速な経済発展もあり、東南アジアなどではものによっては日本で買うより高い場合も多い」(鳥海さん)
■ブランド品が買えない
かつては背伸びをすれば手が届いた海外のラグジュアリーブランドももう遠い存在に……。流通・ファッションビジネスコンサルタントの小島健輔さんはこう語る。
「この20年で、日本の賃金が上がらず、税金や社会保険料が上がったことで消費支出は2割近く下がりました。なかでもアパレル(洋服、シャツ、セーター)の支出は2000年の約11万4千円から2021年には約61000円とほぼ半分に落ち込みました(家計調査)。一方で、ルイ・ヴィトンやエルメスなどの欧州の高級ブランド品は、商品のクオリティを上げ、値上げを繰り返してきました。この円安の影響もあり、日本円での価格は大幅に上がっています」
ある欧州有名ブランドを例にとれば、20年前は5万〜6万円ほどだった定番バッグが、今は20万円ほどと3倍近くになる例も。
■洋酒や輸入食品が高嶺の花に
—今日は誕生日だから。お祝いの日にいいワインを開ける。それができるのはもうセレブだけかもしれない。ワインやチーズ、キャビアなど、高級食材は軒並み高騰している。
日本の購買力の低下で参考になるのが、「ビッグマック指数」だ。マクドナルドのビッグマックは全世界で材料も作り方も同じ。その価格を比較して、その国の購買力を測ることができるのだが、現在の日本の価格は390円で、ベトナムに次いで41位。20年前は5位だったことから急速にものを買う力が低下していることがわかる。
■外車には手が届かない
円安の影響は輸入車にも。自動車ジャーナリストの佐藤篤司さんが話す。
「平均給与所得者の庶民でも、多少無理をすれば購入できたベンツのCクラスも、安全性能などの技術革新のコストが上乗せされ、年々価格が上昇しています。さらに、この円安でほとんどの人には遠いものになりつつあります。
一方で、2千万円以上するようなスポーツカーが一部の富裕層の間で売れている。日本自動車輸入組合によると、1千万円以上の超高級車のシェアは初めて10%を突破。二極化していることが浮き彫りになっています」
■頻繁な国内旅行も難しく
海外は無理だから、国内で。そんな選択も難しくなる。前出の鳥海さんが語る。 「アフターコロナには、円安により物価が安くなった日本に大勢の外国人観光客がやって来ます。なにしろ先進国のなかで、1泊50ドル(約6750円)でそこそこのホテルに泊まれる国は日本だけ。外国人が殺到して、国内旅行をしても予約が取れなかったり、宿代が値上がりしたりするでしょう」
一般の人にとって、京都が今のハワイくらいに遠くなるかも……。
最後に『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)の著書がある早稲田大学の橋本健二教授が語る。
「この20年は、企業が人件費節約のために非正規雇用を増やしてきたことで、日本人全体の賃金水準がまったく上昇しませんでした。かつては日本人の多くは“中流”だといわれましたが、円安によって世界水準では“下流”になってしまうかもしれません。政府には早急な賃金上昇策とともに、円安対策が求められています」