ロシアによる軍事侵攻で、多くの人々が犠牲となっているウクライナ。世界中でウクライナを支援する声が相次ぐなか、日本でも危機にさらされる同国を思い、東京都庁に京都の二条城、神戸ポートタワーに熊本城など各地のシンボルが青と黄のウクライナ・カラーにライトアップされてきた。
いっぽう3月4日、ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使の次のツイートが注目されることに。
《ウクライナを支援するために、東京タワーに青と黄色で点灯するように依頼しました》
《拒否されました。これは、タワー当局がウクライナを支援する機会です》
母国を思い、東京タワーにライトアップを依頼した大使。しかし、断られたというのだ。3月7日現在、ツイートは削除されている。
東京タワーはこれまで、ライトアップを通して様々なメッセージを送ってきた。例えば’15年11月、フランス・パリでの同時多発テロを受け、フランス国旗をモチーフにして青、白、赤にライトアップされた。
また’20年4月には、新型コロナウイルスの終息を願ってブルーにライトアップ。その際、コロナ禍で働いている人に向けて「ARIGATO」と窓文字で感謝の気持ちを伝えていた。
そんな前例があるなか、なぜ大使の“平和への思い”は断ったのだろうか。
そこで本誌は東京タワーの担当者に話を聞いた。
「ライトアップには準備期間が必要となります。ホームページでも公開しているように、ライトアップには“年間カレンダー”があります。それに沿って、ライトアップのプログラミングを行っています。デザイナーさんの監修もあるので、『今すぐできます!』というわけにはいかないんですね」
また、ネットでは《技術的な事情なのか》《仕様として青黄は難しいのだと思います》との声も上がっている。しかし、担当者は「黄色や青色でライトアップしたこともありますから、技術的な問題ということでもありません」と教えてくれた。
■「PEACE」に込めた平和への願い
いっぽう大使の投稿から2日後となる6日、東京タワーは「PEACE」というメッセージを窓文字で送っている。「大使のツイートを受けてのもの?」との声も聞こえてくるがーー。
「実は、PEACEはもともと3月6日にやろうと思っていたものなんです。ロシアの軍事侵攻があり、弊社でも『何かメッセージを』と考えてPEACEというメッセージを伝えることにしました。そして、6日に向けて粛々と準備を進めていたんです。
ですから、大使のツイートの後になったのは、タイミングがたまたま重なっただけで……。それに窓文字もライトアップ同様、それほど簡単なことではないんですね」
というのも、窓文字はアナログな手法で行われているというのだ。
「LEDのパネルを窓にはめ込んでいるんです。例えば東京タワーは年末年始、窓文字で西暦を表示します。その際も職人さんが10人ほどやってきて、一晩かけてポコポコとはめています。『こうすればちゃんと絵になるね』なんて話しながら。
他にも、配線の仕方を考える必要もありますね。ですから今回のPEACEも10日ほど準備してきて、やっと実現したという形です」
では、どうしてライトアップでなく「PEACE」という窓文字にしたのか?
「それは『きちんと言葉で表現したい』と考えたためです。パリで起こった同時多発テロの時、平和への願いを込めてライトアップをしました。いっぽう、今回は総合的に判断してPEACEというメッセージを明確に打ち出すことにしました。そんなPEACEに込めた、我々の思いを受け取っていただけたら嬉しいです」
東京タワーはライトアップをしなかった。しかし、平和への願いは皆同じだ。