「私はもともと監督を尊敬して、同じ俳優事務所に入りました。でも、やはり起こした性加害は許されるものではないと思います。いまでは監督の作品を見る気も起きません」
そう語るのは、かつて映画監督の園子温氏(61)の脚本助手を務め、付き人でもあった男性・Aさん(30代)だ。
およそ3年間、園氏のもとで働いてきたAさんは、10年の歳月を経て性加害を告発することを決意した。
映画監督の榊英雄氏(52)や、俳優の木下ほうか(59)など、映画界の「性加害問題」が噴出した2022年。園氏もまた、その “加害者” と報道されたひとりだった。
『週刊女性』が2022年4月、「園子温が女優に迫った卑劣な条件『オレと寝たら映画に出してやる!』」の見出しで、監督という立場を利用した園氏の性加害疑惑を報じている。
それに対し、園氏は謝罪文を出したものの、「記事は事実と異なる点が多々ある」として『週刊女性』の発行元を提訴し、現在も裁判が続いている。
これまで口を閉ざしていたAさんが、今回の告発に踏み切ったのは、自身の過ちにかたくなに向き合おうとしない園氏への「あきれ」もあるという。
●性行為を連想させるワードとともに伝言を
Aさんの手元には、2010年当時、アクション俳優の坂口拓に宛てたメールが残っている。坂口は『週刊女性』の記事で、園氏と被害女性を引き合わせた飲み会の主催者である「俳優T」は自分だ、と名乗り出た人物だ。
自身が公開したYouTube動画では「それがきっかけで嫌な思いをさせた人がいれば、それは私の責任です。たいへん申し訳ありませんでした」と謝罪している。
その謝罪を見ると、園氏と坂口は「一度の飲み会だけ」の関係に感じるが、Aさんは2人がもっと親密だったことを間近で見てきた。
付き人ということで、Aさんは幾度となく、園氏からの伝言を各所に伝えてきた。2010年12月30日にAさんから坂口に送られたメールには、こう記されている。
《園さんから拓さん宛に伝言預かってます。『どうも体の調子が悪くて元気が出ないから、X(※編集部で伏せ字処理)と4Pした子をまた家に呼んでほしいよ』と言えばわかると言ってました》
性行為を連想させるワードとともに伝言を託した園氏。Aさんが当日のことを振り返る。
「この日は、園さんから『調子が悪くて動けない』と言われ、朝食にファストフードを買って、自宅に届けました。その際、拓さん宛ての伝言として直接、言われたんです。私が『4Pってなんですか』と聞いたら怒られました。(坂口)拓さんにメールを送ると、すぐに電話があり、『園さんそんなことを言っていたのか』と驚いた様子でした」
このメールを送られた当事者である坂口は、代理人弁護士を通じて、本誌にこう回答した。
「10年以上前のことなので経過の詳細まで記憶しているわけではありませんが、少なくてもメールにあるような内容に坂口が関わっていた事実はありません。また、女性を園氏の『性行為の相手方として』紹介したことはこれまでありません」
一方で、園氏に事実確認を申し込むと「直接、説明をしたい」として、対面の回答を希望した。
都内の喫茶店に姿を現わした園氏は席に着くなり、「千葉美裸は嘘をつきまくって。全部、嘘なんで」と、園氏の性加害を告発し、2023年2月に自殺が報じられた故・千葉美裸(みら)さんの名前を出して、一方的にまくし立てた。
遅れて、園氏の代理人弁護士が到着したが、「私は名刺を渡さなくてもいいですか?」と、なかなか名乗ろうとしない。異様な雰囲気のなかで園氏の説明は始まった。
本題の「4Pメール」について、園氏は人を食ったような説明を繰り広げた。
「当時、僕は坂口拓のボクシングジムに通っていて、そこで2人で闘うときは『2P』と。束になって拓に向かっていくとき、彼は『5Pでこっち来い』という言葉を日常的に使っていた。要するに『4P』というのは、そのまま英語ふうに “フォー・プレイヤー” という意味ですよ。
(4Pをしたというのは)下ネタではまったくない。日常的にわれわれはトランプとか麻雀とか、プレステとかやるときに『4Pでやろう』と言ってましたから。そのとき何をやったかは覚えていないけど、4人でトランプの『大富豪』をやったとかそういうことじゃないですか」
しかし、同じく事実確認をした坂口からの回答では「4P」について同様の認識が出てこなかったことを記者が追及すると、
「聞けば、ちゃんと(4Pは性行為ではないと)答えると思いますよ」
と、主張を崩さなかった。さらにこのことを記事にすることをあらためて伝えると、「あらゆる媒体」を使って当該記事を否定すると本誌記者に警告した。
本誌が園氏に回答を求めたのは、この「4Pメール」以外にもある。
「週刊女性」の性加害報道から約6カ月後に妻・神楽坂恵と子供と散歩に出かけていた園氏
●「当時、僕は独身ですし、なにか問題がありますか?」
園氏の間近で、さまざまな頼みごとを聞いていたAさんもまた、園氏に「女性の手配」を指示されていた。
「園さんに『共演した女優を俺に紹介できるか? 女優のひとりくらい口説けない役者は、役者じゃない。連れてきたら役者として見てやる』と言われ、共演者のYさんに連絡するように仕向けれたんです。
Yさんは、園さんの映画が好きだったので、“宅飲み” をすることになり、一緒に園さんの自宅に向かいました。すると、私だけ帰るようにうながされたんです」
園氏に自宅から追い返されたものの、Yさんが手を出されるのではないかと心配になったAさんは、引き返したという。
「部屋に入れてもらい、監視のために2人の前に居座り続けました。すると、園さんは『お前、もしかしてヒーローのつもりか?』と言い、Yさんとのディープキスを見せつけてきたんです。
彼女も “自宅に来た意味” をわきまえたようで、『大丈夫だから。そういうのじゃないから』と私に告げて、園氏と寝室に向かいました。
Yさんはその後、『何もされなかった。優しかった』と言い、私が園氏を紹介したことを感謝していましたが、私の連絡がきっかけで、そういった流れになったことを振り返ると、複雑な気持ちになるんです」
その後、Yさんは園氏の映画に出演している。これについて、園氏はこう説明した。
「Yさんは僕も知っています。たしかに僕の映画にも出ています。当時、僕は独身ですし、なにか問題がありますか? (性的関係があったかどうかは)プライベートな話なんで」
今回、本誌が取材した証言者は元付き人のAさんだけではない。園氏の映画に出演したことがある女優のBさんも、園氏から複数回の性的関係を強要されたと明かした。
Bさんがこう話す。
「当時の私は園さんの作品が好きで、すごい監督だと思っていました。付き合っていた男性が(Aさんとは別の)脚本助手を務めていたこともあり、その男性が紹介する形で園さんに初めて会ったんです。
2010年ごろ、男性と一緒に、園さんの家に初めて行ったとき、私だけ別の部屋に連れていかれ、園さんから急に『添い寝をしてほしい。何もしないから』と言われて……。
そのまま、関係を強要されました。驚いて声も出せなくて、断ることはできませんでした。園氏の様子から、すごく手慣れた感じがしました」
以来、園氏に呼び出されて、数回、関係を強要されたと話してくれたBさん。当時は複雑な心境を抱えていたという。
「そんなことをされても、映画監督として尊敬の気持ちが少しはあったんです。また、そのときはまだ『こういう業界なのだから、慣れていかないといけない』と思っていました。
『飲んでいるから来い』と呼び出されて到着すると、ひとりで泥酔した園さんがいきなりズボンを下ろし、『しゃぶって』と口淫を要求されたこともありました。
園さんは『俺とヤッた女優は、必ず映画に出している。ほかの監督と俺は違う』と甘えるようにつぶやいていました。高圧的な言い方ではなかったですが、そういう態度で女優に接して、都合のいい相手を選んでいたんだと思います。
女優として評価する前に、肉体関係を半ば強要する。なぜそうなるのか、理解に苦しみます」
Bさんとの出会いは、彼女から聞いたとおりに認めた園氏だが、「強要」については否定する。
「その後の話ですが、彼女が出演したDVDが発売されて、Bさんと、その彼氏の男性が『観てください』と僕の自宅に来たんです。性的強要があったとしたら、そんなことするでしょうか。
また、『俺とヤッた~』というセリフは『週刊女性』の見出しと丸々同じですが、これはいま裁判で、取材テープにこんな言葉はなかった、となっているんです(弁護士から『生の言葉として出た事実はない。そういう趣旨の言葉がまったくなかったわけではない』と補足が入る)。
さらにその後、Bさんと、ある映画の打ち上げ会場で再会したときに楽しく会話をしたんですよ。つまり、僕が言いたいのは、性的強要をされた人が、その加害者と談笑するようなことはありえないのではないかということです」
園氏が「楽しく会話をした」と話したことについて、Bさんにあらためて尋ねると、「私としてはあいさつ程度で、そんな気持ちはなかったです」と話した。
本誌が、もう一点、回答を求めたものは、Aさんが保存していた、園氏からのテキストメッセージについてだ。
2012年10月29日から11月12日にかけて、園氏から送られてきたテキストメッセージには、こんな文言が残されている。
《ジスロマックSRドライシロップを通販で買う!》
《わかった?》
《早くGET》
《ジスロマは、錠剤も、ある!》
《もうダメだ》
《早く薬飲まないと》
《気が狂いそえ》
《狂いそうだあ!》
園氏がクラミジア感染症の治療薬を購入するように、2012年10月から12月にかけて、Aさんに送ったテキストメッセージ
●「僕は“神経症”なんですよ」
Aさんが返信をする前に、園氏が一方的にメッセージを“連投”している。かなり異質なやり取りだが、このメッセージの背景について、Aさんが説明する。
「当時、園さんは性感染症のクラミジア感染症に罹患していました。そこで、私に海外の通販サイトで、治療薬の『ジスロマックSRドライシロップ』を購入するよう指示してきたのです。このことは事務所に内緒にするように言われていました」
さらに、前出の女優・Bさんは、このメッセージと同時期に、園氏からこんな内容を伝えられたという。
「突然、園さんから電話がかかってきて『クラミジアにかかった。感染させたかもしれないから、お前も診てもらったほうがいいよ』と言うのです。たしかに、そのときは“強要”された時期と近く……。
自分の身のために受診すると、みごとにクラミジアに感染させられていました。性感染症にかかったのは後にも先にもそのときだけで、とにかく気持ち悪くて仕方ありませんでした。
それ以来、映画監督としての尊敬の気持ちもすっかりなくなり、連絡も無視するようになりました」
このことについて、園氏はこんな反論を繰り広げた。
「若いころ、一度に2つの性病にかかったことがあり、僕は神経質なんです。どれだけ気をつけても、性交渉がなくても、銭湯や公衆便所などで感染させられることがありますから。いまでも銭湯・スパや公衆便所といった公共施設は感染の可能性があるから立ち寄らないように、人一倍気をつけています。
僕は公衆便所で性器が便器についたら慌てるくらいの“神経症”なんですよ。
2012年当時、自宅によく来ていた男性の知り合いに、クラミジアに感染したと言われて、ちょうど自分も似たような症状があったため、『感染させられたのかも』とパニックになっていた。だから、Aさんに治療薬の購入を頼んでいてもなんら不思議はないですよ。
結局、私の心配は杞憂に終わり、クラミジアではなかったんです。Bさんが感染したのは別の男性のせいか、性交渉以外が原因ではないでしょうか」
熱弁で喉が渇いたのか、園氏は自身の「お冷や」だけでは足りなかったようで、代理人弁護士の前にある「お冷や」を手にした。 何をするかと思えば、中の水を自身のコップに継ぎ足して、勢いよく飲んでいた。
Bさんは、園氏から「感染の可能性」について電話を受けたと主張している。その点を追及すると、こう話した。
「それは僕の癖なんですよ。何か災難が降りかかると、そのショックで、たくさんの人間に電話をかけてしまうんです。このクラミジアのときも、性的関係があるなしにかかわらず、たくさんの男女に連絡して、『みんなもちゃんと検査して調べたほうがいいよ』と、さとすことがあったと思います。(Bさんに電話したとしても)よくやることにすぎないです」
園氏の説明は1時間近くにわたった。途中、本誌が「映画界の性加害問題」についてどのように考えているか聞くと、園氏はこう答えている。
「映画業界に限らず、どんな業界でも起きていると思っているので。『浄化が必要』といわれるほど、映画界が特殊だとはまったく思っていません。
僕は女性に好かれたいんです。権力を振り回して、『俺と寝たら出してやるよ』なんて言って、好かれるはずはないから、そんなことは言いたくないんですよ。
権力を振りかざして、性的強要をするとかは許せない。そんなことをするなんて信じがたい。僕はいままでそういうことをした覚えがありません」