“絶対に負けられない戦い”で、日本代表はアクシデントにもめげず、貴重な勝ち点3をゲットした。
4月16日、パリ五輪アジア最終予選兼U-23アジア杯の中国戦に挑んだ日本は、前半8分にMF松木玖生(くりゅう)の得点で先制。早い時間帯での得点だけに、これでノッていけると思われた。
実際、その後も日本が圧倒的に押し込んでいたが、同17分にDF西尾隆矢が、中国代表の挑発に対する報復行為で一発退場となったことで、状況は一変する。数的不利のため、残り73分間は守勢に回ったが、GK小久保玲央ブライアンを中心に、なんとか1点を守りきった。
試合後には、一発退場となった西尾に批判が集中した。たしかに、ボールがないところで中国代表選手が先にちょっかいを出したが、肘打ちの報復行為は許されるものではない、と受け取られたようだ。
ニュースサイトのコメント欄には
《代表戦、しかもオリンピックをかけた大会での初戦。超重要な試合で軽率な行動。代表として情けないどころか代表の資格なし。ごめんでは済まない行為だよ。もう代表から去って欲しい》
《こんな選手は断じて不要。軽率という言葉、愚行という言葉以上に重い行為で有り、未熟とか幼いとか闘争心が・・・等は全く違う》
《あれは軽率だった。何やってんだろうとね。あの中国から「日本のサッカーは暴力的」と言われてしまったら笑い話にもならないじゃん》
など、サポーターの収まらぬ怒りが寄せられている。
大事な試合での一発退場で思い出されるのが、1998年フランスW杯の決勝トーナメント1回戦でのことだ。イングランドとアルゼンチンが対戦したが、前半はともに2点ずつとって折り返す。迎えた後半2分、ピッチ中央でパスを受けたイングランドのMFデービット・ベッカムは、背後からディエゴ・シメオネにチャージを受けて倒れた。ベッカムはうつぶせ状態で顔を伏せていたが、足を上げて相手を軽く蹴った。ほんの軽い気持ちでのことだったかもしれないが、その目の前には、主審がいた。シメオネは当然のようにオーバーに倒れ、痛みをアピール。その後、シメオネには背後からのタックルということでイエローカードが出されたが、ベッカムは報復行為とみなされ、レッドカードが提示された。
これで数的不利となったイングランドは、PK戦の末に敗退。同大会のグループリーグ第3戦のコロンビア戦で代表初ゴールを決めたベッカムだったが、この愚行で、すべてが吹っ飛んだ。
英紙『ミラー』は「10人の勇敢な獅子と1人の愚か者」という標語をベッカムにつけ、多くのマスコミが、敗戦のA級戦犯に指名した。
W杯後、ベッカムはマンチェスター・ユナイテッドに戻っても、あるいは代表戦に出場しても、サポーターから大ブーイングを浴び続けた。さらに“死の宣告”まで受け、警察が捜査に乗り出す事態となった。それでもバッシングは続き、きっかけとなった『ミラー』が「もう批判するのはやめよう」と言い出すほどだった。
その後、ベッカムは批判のなかでも淡々とプレーし、徐々にサポーターも受け入れ始めた。そして2002年日韓共催W杯では、大会の顔となった。
イングランドと日本では、サッカーに対する熱量は大きく違うが、軽い気持ちでやってしまった愚行が、選手生命にかかわる“致命傷”になってしまうことがある。そのことを、西尾には知っておいてほしかった――。
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