8月1日付の東京新聞の記事「感染し単位不認定 東大生留年危機」に対し、東京大学は5日、同紙の報道が事実を正確に反映しない一方的なものとして抗議した。
記事によると、同大学教養学部2年の男子学生が、5月に新型コロナウイルスにかかり、必修科目「基礎生命科学実験」のオンライン講義全6回のうち2回を欠席。また成績の不当な「下方修正」により、単位不認定となって留年が決定したという。
罹患時、「経験のないつらさで頭が回らなかった」という男子学生は、2回めの欠席から数日後、症状が和らぎ始めたころに担当教員へ連絡。補講を希望すると、教員は2回めの欠席への補講のみ承認。
男子学生はこの補講の課題を提出したが、6月17日の成績発表で「不可」と通知され、来年度は専門課程に進めず、同科目の履修のためだけに留年することに。
納得のいかない男子学生は、「落ち度のない感染への理不尽な対応で到底納得できない」として、アカデミックハラスメントを扱う学内組織に申告したという。
東京新聞の報道に対し、同大学教養学部の学部長・森山工氏は、男子学生が単位を取りそこねて留年を余儀なくされることと、大学の新型コロナウイルスへの対応は無関係であるにもかかわらず、同紙はこの2つがリンクしているように読者に印象づけていると反論。
東大が出した抗議文によれば、同科目では、新型コロナウイルスに限らず、体調不良等による欠席は当日11時までに所定の連絡フォームから教員へ伝える仕組みとなっている。
男子学生はこれまで出席登録や課題提出をおこなっているため、そのことについて知っているはずだが、にもかかわらず、5月17日は無断欠席。25日になって「コロナ欠席」を申し出た。
また、男子学生は17日夕方に同システムにアクセスしていることから、症状が重くて申請できなかったという主張にも無理があるとする。つまり、問題は「コロナ欠席」ではなく、所定の手続きを踏まなかったことにあるのだという。
さらに、留年が決定することになった「不可」という成績は、5月17日の欠席が原因だとするのは男子学生の「心証・主観である」と強調。同科目は16人の教員による集団指導体制のため、個人の恣意が入り込む余地はなかったと付け加えた。
こうした事実を踏まえることなく、男子学生の主張にのみ依拠した同紙の報道は、「ジャーナリズムとしてあるべき取材の適正性、事態の全体を視野に入れた上での記事の公平性・公正性に大幅に悖(もと)る」とし、「極めて杜撰な事実誤認であり、事実確認の欠如」と厳しく非難している。森山学部長は、同紙に対し、訂正と謝罪を公式に要求している。
8月4日、男子学生は弁護士とともに文科省記者クラブで、大学側の救済措置が不十分であると記者会見を実施。その模様は、毎日新聞やNHKなど複数のメディアが報じたが、同大学が抗議したのは東京新聞に対してだけだった。
その理由について、本誌が同大学に尋ねると、「8月1日付けの同新聞で、当該学生の一方的な申し入れに沿って同新聞がこれを記事にしたからです」との回答を得た。
また、抗議後に東京新聞から何らかの反応があったかについては、「現時点で、同新聞から追加質問はきておりますが、抗議文に対する同新聞からの回答は得ていません」とのことだった。
本誌が東京新聞に対し、抗議文への対応を質問すると、東京新聞編集局名義で次のような回答があった。
「紙面でお伝えした通りであり、個別の取材活動や内容に対するお答えは差し控えさせていただきます。なお大学側の抗議文は東京大学様のサイトにも掲載されております。本紙としては同大学へ本紙見解を送付、抗議文同様に同大学サイトでの掲載を求めてまいります」
8月5日付の東大新聞によると、男子学生は抗議文への反論を準備中だという。東大は「この問題が必要以上に大きくなることは望んでいない」としているが、はたしてどのような着地となるのだろうか。
外部リンク