やべぇドラマが始まった。そう思った。
こんなふうにボキャブラリーが貧困になってしまうほど、食い入るように第1話を観た。
先週月曜にスタートした長澤まさみ主演の『エルピス―希望、あるいは災い―』(フジテレビ系)。実在の複数の事件から着想を得ているという「社会派エンターテインメント」とのことだ。
タイトルだけではどういったドラマなのかわかりにくかったこともあり、最初はさほど期待していなかったので、余計に驚いた。序盤から「どんな話なんだ?」とぐいぐいストーリーに引き込まれていくような、予想を大きく上回る “吸引力” を持った作品だったのである。
■不穏なニュアンスをはらんだ「エルピス」という言葉
主人公は大洋テレビアナウンサーの浅川恵那(長澤)。
かつては局の看板ニュース番組でサブキャスターを務めていたエース女子アナだったが、報道局の敏腕記者(鈴木亮平)との路上キスを週刊誌にスッパ抜かれたことで、番組降板の憂き目にあう。現在は “制作者の墓場” と揶揄される深夜の情報番組のコーナーMCを担当する、落ちめ女子アナとなっている。
そんな彼女が番組の若手ディレクター(眞栄田郷敦)に焚きつけられ、10年ほど前に起きた10代女性の連続殺人事件の冤罪を追及する決意を固める。第1話終盤で、かつての殺人事件を彷彿させる少女の遺体が発見される。模倣犯の仕業なのか、それとも野放しになっている真犯人の仕業なのか……という謎めいた展開だった。
本作に当初あまり期待していなかったのは、『エルピス―希望、あるいは災い―』というタイトルのわかりにくさゆえだったが、どんどん物語に引き込まれていったのもこのタイトルゆえである。
このドラマ、物語の着地点がわからないのだ。
公式サイトによると、「エルピス」とは《古代ギリシャ神話で、中からさまざまな災厄が飛び出したと伝えられる「パンドラの箱(壺)」に唯一残されていたものとされ、良きことの予測として【希望】、悪しきことや災いの予測として【予兆・予見】とも訳される言葉》だという。
不穏なニュアンスをはらんだ「エルピス」という言葉をタイトルにしているあたり、ハッピーエンドになるとは限らず、むしろバッドエンドもありえそう。また、タイトルが意味深長なだけでなく、ジャンルがミステリーやサスペンスではなく社会派エンターテインメントとなっていることも気になるところだ。
普通に考えれば冤罪を証明し、主人公が自信を取り戻してめでたしめでたしというエンディングになりそうだが、そんな単純な筋書きになるだろうか。
主人公が冤罪をはらそうとしているのだから、セオリーどおりなら真犯人は別にいると考えるのが妥当。しかし、そもそも本当に冤罪なのかという疑念さえよぎるのである。
とにかく続きが気になって仕方ない。
■今期の4作品、フジテレビがかなり本気を出してきた?
第1話の世帯平均視聴率(※ビデオリサーチ調べ/関東地区、以下同)は8.0%で、今のご時世で考えればそこまで悪くない数字。
本作は長澤にとって4年半ぶりの連ドラ主演作なのだが、前作は2018年4月期の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)だった。
4年半前は現在よりも視聴率の重要度が高かったが、『コンフィデンスマンJP』は第1話から最終話まで一度も二桁に乗せられず、世帯平均視聴率が7%台まで下がったことも。
そのため内容の評価は高かったものの、数字的には不発とする声も少なくなかった。けれど、ご存知のとおり、いまや劇場版がコンスタントに制作される大ヒットシリーズに化けている。
『エルピス―希望、あるいは災い―』も視聴率に関係なく高く評価され、長澤の新たな代表作になるという予感しかない。
余談だが、今期のフジテレビのプライム帯ドラマ4作はどれも気合い十分。
吉沢亮主演の医療ドラマ『PICU 小児集中治療室』は、ご都合主義を排除したシリアスな作りで真摯に重いテーマに向き合っている。
川口春奈主演の恋愛ドラマ『silent』は、聴覚障害者となった元彼氏との切ない純愛を描き、「泣ける」と大きな話題に。
Hey!Say!JUMP・山田涼介主演のサスペンスドラマ『親愛なる僕へ殺意をこめて』は、サイコな猟奇殺人事件を題材にしており、グロいシーンなどもいとわない攻めた内容だ。
そして、真打登場とばかり、最後にスタートした『エルピス―希望、あるいは災い―』は、今夜放送の第2話以降もかなり期待が持てる作りになっている。
フジテレビの本気が垣間見える今期の4作品、どれも今後が楽しみである。
●堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『週刊女性PRIME』『日刊SPA!』などに寄稿中
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