早くも興行収入100億円超え確実といわれている映画『劇場版 呪術廻戦 0』の大ヒットで、もしかすると『エヴァンゲリオン』の主人公声優が複雑な心境に陥っているかもしれない。
「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載中の漫画『呪術廻戦』は、2021年12月に発売した最新18巻で累計6000万部を突破するメガヒット作で、“ネクスト『鬼滅(の刃)』”と称される作品だ。
2020年10月から2021年3月まで放送されたテレビアニメシリーズがきっかけで大ブレイクしていたが、本編の前日譚を描く『呪術廻戦 0』が2021年12月24日から公開開始。その映画版がなんと、公開からわずか15日間で累計興行収入67億円突破という快進撃を見せているのである。
■『エヴァ』が4週間で立てた記録に約2週間で並ぶ『呪術廻戦 0』
本題はここから。
『呪術廻戦 0』では、本編『呪術廻戦』とは異なる主人公が立てられている。今作の主人公・乙骨(おっこつ)憂太を演じるのは大御所声優・緒方恵美(56)で、代表作といえば『エヴァンゲリオン』シリーズの主人公・碇シンジだ。
そして『エヴァンゲリオン』は2021年、全シリーズの完結編である映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開され、興行収入102.2億円という大台突破で有終の美を飾ったのは記憶に新しいところだろう。
しかし、1995年のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の放送から27年の集大成として生み出された『シン・エヴァンゲリオン』の記録を、あっさり『呪術廻戦 0』が上回ってしまいそうなのだ。
前述したとおり、『呪術廻戦 0』の興収は公開15日間で67億円を突破している。それに対して、『シン・エヴァンゲリオン』は公開14日の時点で49億円突破、公開28日の時点で68億円突破という状況だった。
また『呪術廻戦 0』の配給をする東宝は、公開初日(2021年12月24日)の舞台挨拶時に、公開初日だけで観客動員100万人を狙えるというデータが出ていたことから、「興収100億円突破は確実」「最終的な成績は予測不能」と息巻いていたほど。たしかにこのままいけば、東宝の言うとおり興収100億円突破はクリアし、あっさりと『シン・エヴァンゲリオン』が打ち立てた記録を超えていきそうである。
■足かけ27年…人生の半分近くをともに過ごしてきた『エヴァ』
プロフェッショナルである声優の緒方が作品に優劣をつけることはしないだろうし、『呪術廻戦 0』の大ヒットも喜んでいるであろうことは大前提。だが『呪術廻戦 0』よりも『シン・エヴァンゲリオン』のほうが、思い入れが深いのは容易に想像がつくだろう。
『シン・エヴァンゲリオン』のパンフレットに掲載されていた5ページにも及ぶインタビューの締めで、緒方は次のように語っている。
「いつかまた『完結編のその先を、とか、アナザーワールドをやるけれど、まだ14歳やれる?』と聞かれたときには『やりますよ』と迷わず言える私でありたい。死ぬまで、14歳の心を演じられる役者で居続けられたらいいなと思っています」
足かけ27年、人生の半分近くをともに過ごしてきた『エヴァンゲリオン』シリーズと、主人公の14歳の少年・碇シンジへの愛情がはてしなく大きいことが伺えるコメントだ。
また『シン・エヴァンゲリオン』は、興収70億円~80億円台のころから、ファンや運営の間で「主人公・碇シンジと総監督・庵野秀明を“100億の男へ”」という空気感が醸成されていたのだ。
主人公と総監督を“100億の男”にするため、リピーター化していた『エヴァ』ファンも少なくなかっただろうし、運営側も興収を100億円に届かせるために躍起になっていたフシがあった。
その最たる例は、公開から3カ月も経ったころに投入された、36ページにも及ぶ入場者特典の冊子『EVA-EXTRA-EXTRA』。運営側は、有料で販売してもいいクオリティの冊子を追加で無料配布するほど、なりふり構わずにリピーター獲得を狙い、興収の記録を伸ばすことにこだわっていたように思う。
緒方にとって、ファンや運営の愛と熱量でようやく100億円に届いた『シン・エヴァンゲリオン』の記録を、自身が主人公とはいえシリーズ初参加となった『呪術廻戦 0』があっさり超えていくとなると、少々、複雑な心境になるのではないだろうか…。
●堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで「女子SPA!」「スゴ得」「IN LIFE」などで恋愛コラムを連載。現在は「文春オンライン」「週刊女性PRIME」「日刊SPA!」などに寄稿中
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