2023年1月から、映画監督の是枝裕和氏がNetflixオリジナルシリーズで初めて監督を務めた作品『舞妓さんちのまかないさん』が配信される。同作は、2016年から「週刊少年サンデー」で連載中の、小山愛子氏による同名人気コミックを原作にしたもの。2021年には、NHKでアニメも放送された注目の作品だ。
舞台は、京都の花街。舞妓たちが共同生活を営む屋形 の「まかないさん」となった主人公・キヨと、青森から一緒にやってきた親友であり、舞妓でもある、すみれの暮らしが描かれる。
森七菜と出口夏希のダブル主演で、華やかに描写される舞妓の世界。常盤貴子や松坂慶子といった豪華なキャストが脇を固め、監督は日本が誇る是枝氏ということもあって、配信前から話題を呼んでいるが、2022年は、“現実の花街”にも注目が集まった――。
《この世から抹殺されるかもしれんけど、これが舞妓の実態》
6月26日、お座敷の写真とともに投稿されたツイートは、またたく間に13万以上のリツイートがあり(当時)、30万以上の「いいね」がついた。
《当時16歳で浴びるほどのお酒を飲ませられ、お客さんとお風呂入りという名の混浴を強いられた(全力で逃げたけど)。これが本当に伝統文化なのか今一度かんがえていただきたい》
投稿者は京都・先斗町の舞妓だった桐貴清羽(きりたかきよは)さん。2015年2月に屋形(置屋)に入った桐貴さんが、舞妓時代の名前を市駒と明かしたうえで、メディア初となる本誌の取材に答えたのは、初投稿から2週間後のことだった。
「私は2014年5月に、先代の女将と面談して、2015年2月に屋形に入り、“舞妓になる修業”に励みました。ずっと日舞を習っていて、漠然と日舞を仕事にできれば、と思っていました。親からも『芸舞妓なら踊りを仕事にできるから』とすすめられたのです」
しかし、置屋の生活は想像以上に厳しいものだった。
「髪結いをする日は朝4時、5時起きです。休みは月に2日ありますが、何もできません。だって、現金をほとんど持っていないのですから。もらえるお金は月に1回、5万円ほどのお小遣いがすべてです。そこからお化粧品代や生理用品などの支出もまかないます」
桐貴さんが「市駒」として舞妓になったのは、2015年11月。それから2016年7月までの約8カ月間、15~16歳の少女が花街で経験した“セクハラ”は壮絶だった。
「横になった舞妓の上にお客様がまたがって、腰を上下させるような“接触系”がありました。また“シャチホコ”といって、舞妓が三点倒立をして、お客様が着物の裾を広げて下着を見る“覗き系”もありました。舞妓は子供なので『性的な行動を理解しておらず、恥ずかしがらない』という建前があり、嫌でも拒否できません。当然、お酒も入っています。座興の度がすぎて、着物の脇や裾の間から、手を入れてくるお客様も出てきます」
桐貴さんが初投稿した2日後、会見で後藤茂之厚労大臣(当時)が、投稿内容をめぐって「芸妓や舞妓の方々が適切な環境のもとで、ご活動いただくことが重要」との見解を示すなど、世間の反応は大きかった。だが、桐貴さんの訴えは、当初、京都の花街には届かなかったようだ。
桐貴さんとは別の花街の関係者が当時、本誌の取材にこう話している。
「投稿の翌日には各花街のお茶屋組合から、舞妓の飲酒はお茶屋内だけに限定するようにという “お知らせ” が配られたそうです。また、お茶屋さんから舞妓さんを管理している置屋さんに向け、個別取材には応じないように申し渡しもありました。
置屋の中には、当分のあいだ、舞妓を外出禁止にしたところもあったそうです。その際、『市駒が変なことを言っているから』だと申し送りをしています。つまり、市駒は反逆者なのだと印象づけをしたのです」
実際、桐貴さんは告発後、恐怖を感じる体験をしたと本誌に明かしている。
「投稿してからしばらくは、携帯電話の着信が鳴りやみませんでした。この携帯番号を知らないはずの、京都時代の関係者たちからもかかってくるんです。なかには『京都は怖いところだよ。(暴露して)危険じゃないか?』とか、『おとなしく家庭に引っこんでろ』とだけ言って切れる電話もあり、怖かったです」
しかし、未成年者である舞妓たちの実態が、桐貴さんを通じて明らかになるにつれ、花街にも変化の兆しが見えたという。前出の花街関係者は9月、本誌にこう語っている。
「すでに花街のひとつが、舞妓の飲酒を完全にやめています。また、同じ花街ですが、舞妓は22時までに置屋に帰るように徹底しているようです。
そもそも舞妓とは、芸妓を目指して修業する15歳から20歳までの女性のことをいいますから、仕込み(見習い)に入る娘が5年間いなければ、ゼロになってしまいます。ほかの花街もあとに続かざるを得ないでしょう」(前出・花街関係者)。
その変化を受け、桐貴さんも本誌に胸中を明かしている。
「舞妓の実態について、みなさんが真剣に捉えていただけたことは嬉しかったです。花街で、舞妓が大っぴらに飲酒をすすめられることは少なくなったと聞いています。
でも、長く続いた慣習はなかなか改善されません。口の堅い常連さんには、今までと同じ接待があるとも聞いています。根本的な解決が必要です」
伝統として続けられた悪習――。解決の糸口は見えてくるだろうか。
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