発端は8月15日、兵庫県明石市の泉房穂市長がTwitterで投稿した怒りの告発だ。
《『日本子育て支援大賞』というとイメージがいい。普通にいただけるなら、ありがたく思う。しかし、お金で賞を買うとなると、話は違う。実は今年の3月に主催者から『大賞』に推薦したいと明石市に連絡があったが、お断りをした。大賞受賞の条件として、“金銭を要求されたからだ。大人の世界だ・・・》
泉市長の主張としては、「日本子育て支援大賞」なる賞の受賞と引き換えに、合計80万円の金銭を要求されたということだ。
本誌が泉市長に真意を確認すると、その経緯を教えてくれた。
「3月にお声がけいただいた際、私が『賞はありがたく頂戴したいけど、市民の税金ではとても払えない、考えてほしい』と伝えると、『みんな払ってますよ』と担当者に反論されたんです。その後しばらくして『今回はなかったことにしてください』と、先方から断られました。
民間企業ならまだしも、税金で運営している自治体に金を求めるなんてありえないでしょう。ましてや明石市長である私が金を出すわけない。(払うだろうと)私に声をかけてきたこと自体が頭に来ますね。
今回、八王子市、枚方市など4自治体が受賞したようですが、4自治体は本当に80万円支払ったのか知りたいですよ。
一方で、それだけ『子育て』が政治的イシューになってきていることは実感します。ただ、『子育て』というキーワードを悪用して、協賛企業の宣伝をしよう、自治体に金を出させようとするのはおかしいです」
と、怒り心頭の様子だ。
そもそも「日本子育て支援大賞」とは、元花王の代表取締役専務である吉田勝彦氏が理事長を務める、一般社団法人日本子育て支援協会が運営するアワードだ。
公式ホームページには、このアワードの趣旨として「子育てに良い商品、サービスがたくさん生まれてくることを支援していきます。子育てママとパパさらにはその祖父母が実際に“役立った価値”を大いに評価する賞です」と説明されている。
その選考プロセスはこうだ。まず、「一般公募及び事務局によるノミネート方式」で応募を受け付けたうえ、第一次選考として「子育て支援関連企業に勤務するママ社員、パパ社員計10名のうち7名以上の票を獲得した商品・サービス」が通過するという。
そして第二次選考に進むと「日本子育て支援協会 吉田勝彦理事長を審査委員長とした審査委員会による選考会議での合議により」最終的な受賞が決まる。
子育て支援大賞は、2022年で第3回を迎え、33の企業の商品と4つの自治体が受賞している。だが、泉市長の主張が事実なら、受賞は血税80万円で “購入” しなければならないことになる。
そこで本誌はまず、今回受賞した4つの自治体に取材をおこなった。大阪府枚方市、東京都八王子市、茨城県境町、岡山県奈義町だ。
各自治体に尋ねると、さまざまな回答が寄せられた。金銭を受賞の “引き換え” として支払った自治体は1つもなく、10万円のトロフィーを2つの自治体が購入していただけだった。
「こちらから応募したところ、受賞に関する案内として、トロフィー代やロゴマークの使用料についての説明を受けました。市のほうで検討した結果、購入は控えることにいたしました。うちはちゃんと断っていますよ」(枚方市)
「税金なので買いませんという前提で進めておりました」(八王子市)
「境町では、受賞については、厳正な審査の結果と受け止めております」(境町)
「ロゴもトロフィーもご希望があれば利用できますという形でした。トロフィーは購入しましたが、施設に飾り、市民の方と一緒にお祝いいただけるようにしております。泉市長のツイッターを拝見しましたが、どこかに行き違いがあったとしか思えません。受賞を素直に喜びたいのですが……」(奈義町)
と困惑する。では、日本子育て支援協会の見解はどうか。問い合わせると、理事長の吉田勝彦氏から返事があった。
まず、受賞と引き換えに金銭を要求したのかどうかについては、
「受賞の泉市長から推薦者に連絡があり、日本子育て支援大賞の内容と『お金がかかるのか』というご質問に対してトロフィー代とロゴマーク使用料をお伝えし、お金を払う場合のことをお伝えしました。引き換えとは話していないと聞いています。ただし、無償の場合もあることを丁寧に話したほうがよかったと思います」
と回答。さらに「みんな払っていますよ」という “営業トーク” については、
「『みんな払ってますよ』と言ったかどうかは定かではありませんが、『払われている場合もある』が正しくて、そこも必須条件みたいな誤解を生んでいると思われます」
という。また、金銭の支払いを拒否した後、「今回はなかったことにしてください」と断ったことについては、
「推薦リスト後に応募用紙をいただいておりますが、明石市の担当者さまがこちらでは書けないのでそちらで対応して欲しいと言われ、こちらが代筆はできないので、その結果、今回は応募ができなかったので、審査も致しておりません」
と、応募用紙の代筆を求められたためだと答えた。
協会側は「丁寧に話したほうがよかった」と反省してはいるものの、食い違う両者の言い分。
改めて泉市長に尋ねると、「これ以上、茶々を入れるつもりはないんですよ」としつつ、こう語った。
「Twitterに投稿した後、2つの自治体から『泉さん勘弁してくださいよ。うちは払ってないですよ』と連絡をいただきました。確かに、受賞した自治体が、まるでお金を払ったかのような書き方はまずかったですね。それは申し訳ないと謝りました。
受賞した4つの自治体は、5月ごろに応募したそうなんですよ。ただ、うちは3月8日、事務局の『ミキハウス子育て総研』からメールがあり、明石市を推薦して子育て支援大賞をあげますと言われたんです。これって要するに、うちの市は子育て支援で有名だから、早い段階で連絡して応募してもらおうということでしょう。
ただその際、こちらとしては『その代わりにお金を払ってもらわんと推薦できませんよ』と担当者に言われたという認識です。
私はそこで『自治体にお金を請求するのはおかしい。税金で払わすのまずいで』とさんざん注意したんです。
もしかすると、彼らは私の言葉で方針転換したのかもしれませんね。その後はどこにもトロフィーやロゴの “営業” をかけず、粛々淡々と応募したところから選んだのかもしれません」
と推測するのだった。
「さまざまな業界で、企業が賞を受賞した際に、『〇〇賞受賞』などのロゴの使用料を企業側が主催者に払うというのは、ごく一般的なことです。
運営するにあたっては経費もかかりますし、そのおかげで商品が売れるなら、企業側にも文句はありませんからね。ただ、自治体の場合は難しいでしょう。トラブルが起きないよう、事前に丁寧な説明が必要です」(経済紙記者)
子育て支援をめぐる、げんなりするような “大人の事情” だった。
外部リンク