「ひろゆきさんのように、相手の感情を揺さぶり、瞬間的に言い返す力を競うのは、ほとんど意味がないと思います」
取材の冒頭でこう断言したのは、立憲民主党所属の米山隆一衆議院議員(56)だ。彼が、ひろゆきこと西村博之氏(47)に言及するのには理由がある。発端は11月25日に配信された、2人の“舌戦”だ。
YouTubeのネット番組『ReHacQs(リハックス)』で、米山氏とひろゆき氏との討論がおこなわれた。ひろゆき氏といえば「論破王」の別名で知られ、ディベートの強者として、メディアに取り上げられることが多い。この日、そんな“王者”に圧勝したのが米山氏だった。
番組で議論されたのは、地方の医師不足問題だった。米山氏は「医師の数を、そろそろ人口割で配置することを考えるべき」と提言したが、これにひろゆき氏が噛みついた。米山氏の考えに立つと、山村では車で2時間かかるような遠いところに病院ができ、病院にアクセスできない高齢者が増えるとして、「(病院まで)2時間以上かかる人は別だから『知ったこっちゃない』になるんですか」と批判したのだ。
米山氏はこれに、「まず制度の概形を考えたうえで、例外的なところを考えればいい」と、ひろゆき氏が些末な部分を無理にあげつらっていると指摘した。
「彼は、相手の主張を“極論”にして返してくる。『そんなことは言ってない』と冷静に指摘するのが大事なんですが、いくら専門家でも急には言い返せません。しかも、ひろゆきさんは自信満々で言ってくるから、彼のほうが正しいような印象を与えるんです。他人が返答しづらい質問をする『芸』でしかない。議論が得意なわけでもないし、しかもじつは知識も乏しいんです」
こう米山氏が酷評するひろゆき氏の“ぼろ”が出たのは、番組開始から25分ごろのこと。米山氏は、医師の人口割配置のために「健康保険組合の統合が必要」と提言。しかしひろゆき氏は、「米山さんの言っていることはすでに実現している」と言い、「(各自治体で健康保険の)サービスは一緒ですよね? 金額(保険料)は一緒ですよね?」と言うが……。
「国民(健康)保険の地域によってできるサービスは違う。(保険料も)変わるよ」
この米山氏の指摘どおり、国民健康保険料やサービスは自治体ごとに異なり、基本的な知識と言っていい。これに“論破王”は、きょとんとした顔でだんまり。さらに、これを機にひろゆき氏の瞬きの回数が増えたことで、「動揺を隠せていない」と指摘する声が、ネット上で相次いだ。この様子を米山氏が振り返る。
「まあ目にゴミが入っただけかもしれませんが(笑)、いつもと違う反応を見せていると感じました。彼の知識が乏しいと感じる場面は、これまでにもよくありました。SNSを見ていても、政治や経済の知識はそこまで豊富ではない。ITに関しても彼が関わったビジネスについては明るいでしょうが、それ以外は一般人と同じ程度でしょう。
特段、何か専門知識があるわけではない。彼はネット検索しながら討論しますが、検索結果をうまく使って、つまらない揚げ足を取ってくるだけです」
追い詰められたのか、ひろゆき氏は番組の後半で、論点を米山氏の過去のスキャンダルへとずらした。米山氏は2018年、新潟県知事在職中に、SNS上で知り合った複数の女性と交際し、金品を渡して男女関係を持ったと報じられている。米山氏はこれを「恋愛だと思っていた」としつつ、県政に混乱を招いたと、知事の職を辞している。
ひろゆき氏はこの件を取り上げ、「僕は(米山氏は)人の上に立つべきでないと思っている」と言及。これに米山氏は「それはいいよ、ご批判として受け止める」と応じつつ、「政治家に倫理規範を求めながら、ご自身は(倫理違反は)ゼロなんですか?」と返した。
ここで、ひろゆき氏の再三の求めに応じて米山氏が指摘したのが、ひろゆき氏の「賠償金踏み倒し問題」だ。ひろゆき氏は、自身が管理していたネット掲示板「2ちゃんねる」をめぐり、民事訴訟で支払い命令が出た賠償金を支払っておらず、すでに時効になっている、とかねて自ら発言してきた。これについて米山氏は「損害賠償を踏み倒すのは、少なくとも倫理的にはおかしいよ」と声を荒げた。
「彼はお金持ちだし、どんな無礼なことをしても平気だから、怖いものがないだけです。かつ、間違いを指摘されても、笑ってごまかせばいいと思っている。一人だけ無礼な言論をしていい立場にいるから、強く見えるだけです」
だが、自分で言わせた米山氏の指摘に対して、ひろゆき氏は「僕、ひと言でも『自分は素晴らしい』って言いました?」「米山さんのほうがヤバいことやってんな、と僕は思ってます」と反撃。
これに対して米山氏は「比較してないです。あなたが言えっていったから言っただけです」とぴしゃり。「そうやってニヤニヤ笑って勝ったふうをされるのも不快なんですよね」と追い打ちをかけた。この日、ネットがもっとも沸いたのが、このシーンだった。
最後に米山氏は、ひろゆき氏の“正体”をこう語った。
「そもそも彼は、ネット業界で少し成功しただけの、たんなる普通の人。生産性がないし、議論を深めているわけでもありません。誰にでもズケズケ言えるから、人々のガス抜き役になっているだけです。『ひろゆき論法』的な、自分の正しさを演出する技法が流行っていますが、そうした論法の使い手が、必ずしも正しいことを言っているわけではないと、今回の議論が証明したと思います」
こう語る米山氏の鋭い眼力は、社会全体に向けられている。
写真・長谷川 新
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