秋葉原駅から「つくばエクスプレス」を利用するときの小さな楽しみは、駅の改札付近にある「ランチパック」の専門店に立ち寄ることです。
ランチパックは、ご存じ、山崎製パンが販売するパック入り菓子パン・総菜パンのシリーズ。発売から38年めのロングセラー商品で、私の家のテーブルにも、昔からピーナッツが常にあり、小腹が空いたときや時間がないときの朝食に重宝しています。
いま、全国で販売されているランチパックは60~70種類。この「ランチパックSHOP」に入ると、種類の多さを実感します。コンビニなど店舗限定商品を除き、各地方でしか販売されないご当地ランチパックやコラボ商品まで、バラエティの豊かさに感心するばかり。選べる楽しさに加えて、ネーミングや具材にも興味がわきます。
SHOPの最近の一番人気は、ペコちゃんとポコちゃんの顔のチョコレートが入った「ペコポコチョコレート入れちゃいました」でした(3月で販売終了)。
「ペコポコ」ファンの私は、パンの間からどの顔の板チョコが出てくるのか、毎回、期待を胸にパンを慎重にちぎり、「おー!」と歓声を上げては、チョコとホイップクリームとパンの絶妙な取り合わせを美味しくいただいていました。
ランチパックの人気はすさまじく、年間の出荷数は約4億袋、1秒間におよそ13個も売れています。人気の秘密を、ランチパックの生き字引、山崎製パンマーケティング部の保田高宏課長に伺いました。
2021年の売上ランキングは1位たまご、2位ピーナッツ、3位ツナマヨネーズで、この3種類で、ランチパック全体の売り上げの約半分を占めているそうです。
しかし、攻め続けるランチパックは、毎月1日、全国規模で4~5種類の新商品を投入します。4月の新商品は粒ピーナッツとナッティチョコ、ペッパーポテトサラダ(ベーコン入り)、ナポリタン、たっぷりチーズクリームです。
ランチパックを生産している工場は全国に20カ所あり、各工場も毎月のように独自の新商品を販売します。2021年に発売されたランチパックは160種類。そのうち、ご当地商品は45種類、コラボ商品は48種類ありました。
「各工場が作りたいという商品は、よほどでない限り、拒まないという姿勢を徹底しています。その結果、多種多様になり、近年では、武蔵野工場が発売した桔梗信玄餅が人気となり、全国発売されました」(保田課長)
独自の生産体制をもつ各工場のやる気が、新たなヒット商品を生む好循環を生んでいるようです。
新商品の企画開発にあたっては、「ビッグイベントにかかわらず、何かあれば、そこにランチパックとして何かできないか常に頭に置いてアンテナを張っています」と話します。
プロ野球の開幕に合わせて、期間限定で12球団とコラボしたランチパックも反響が大きいそうです。
「今年は有観客での開催になると感じていました。新庄剛志さんが日本ハムの監督になると聞いて、『プロ野球をいまやらずにいつやるんだ』とスイッチが入りました(笑)。北海道日本ハムファイターズは『ニッポンハム』のハムを使用したハムドレッシング和えとソース付きハムカツのサンドです」
この企画も、大半の商品は各地の工場が球団と相談して、地元の特徴を生かしつつ、球団らしさを前面に出して開発したそうです。
「お好み焼きは『広島』ですか?」と聞くと、「いえ、広島は『ネクストご当地広島』と言われている、汁なし担々麺風フィリングのサンドです。お好み焼きはオリックス・バファローズです。大阪名物ですから。神戸名物『そばめし』との組み合わせです」
このシリーズ、発売から1週間で累計約230万袋を出荷しました。正直、お好み焼きがサンドされたランチパックなどは、私には不思議な食べ物なのですが、保田課長は自信をもって語ります。
「これまで、さまざまなものをサンドしてきました。汁気のあるものは滲み出してしまうとか、日持ちのしないものは衛生的に無理がありますが、そんなものもできるのですか? と言われるものもサンドできます」
ランチパックは、品質向上に余念がなく、専用の食パンは普通のパンよりきめを細かくすることで、美味しさだけでなく、さまざまな具材をはさめるようになったそうです。
「ふっくらした食パンと具が人気の秘密。形が決まっているものなので、これからもファンを地道に増やしていくよう、新商品を作り続けていきます」と保田課長は力強く語りました。
ランチパックの歴史上、発売当初から販売されているピーナッツが一番人気。「なぜかわからないけれど人気」だそうですが、ここでちょっと意地悪な質問を。残念だった商品はなんですか?
「申し上げにくいテーマではありますが、『ごはんもの』は難しいです。ごはんは常温でもかたくなる。柔らかくすると本来の美味しさにならない。ピラフやパエリア風、オムライスなども販売したことがありますが……いつか『ランチパックごはん』を出したいですね」
2019年のラグビーW杯日本大会では海外メディアにも絶賛されたランチパック。これからも進化は続くはずです!
横井弘海(よこいひろみ)
東京都出身。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京パーソナリティ室(現アナウンス室)所属を経てフリー。アナウンサー時代に培った経験を活かし、アスリートや企業人、外交官などのインタビュー、司会、講演、執筆活動を続ける。旅行好きで、訪問国は70カ国以上。著書に『大使夫人』(朝日新聞社)
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