「今回、SPが20人から30人いたという情報がありますが、私は正確な情報ではないと思います」
そう語るのは、オオコシセキュリティコンサルタンツのシニアコンサルタントで、元警視庁の警察官であり、外国の日本大使館での勤務、警護などに従事した経験を持つ、松丸俊彦氏だ。
7月8日に奈良市で発生した安倍晋三元首相の銃殺事件。一夜明け、当日の警護体制に不備はなかったのか、など、警察の対応に疑問の声が噴出している。
「元総理大臣には、普段から警視庁の警護員が1人、つきます。1人で24時間、警護するわけにはいかないので、3人が担当となり、つねに、そのうち1人が警護につきます。今回は東京から1人、奈良県警の警護員が数人いたと思います。警護の服装は、制服やフル装備だとものものしくなるので、私服姿だったとは思いますが、管轄所の方や機動隊の方もいたはずです。
ただ、今回の事件は、単純な警護の人数の問題ではありません。安倍元首相が撃たれてしまった映像を見る限り、大きな問題点が2つあると思います」(松丸氏・以下同)
警護にあたっていた人数が仮に50人いたとしても、この2つの問題点が解決されなければ、同じことが起きていたはずだという。
「1点めは、安倍元首相の後ろを警戒している人が誰もおらず、がら空きだったということです。選挙カーの上で演説をしている人の後ろを思い浮かべていただければ、わかるとおもいますが、通常は演説をする人に、背中合わせで立っている人がいるはずです。つねに後ろを警戒する人が1人、もしくは2人必要なんです。
後ろががら空きだったことに東京から行った警護員が気づけば、奈良県警に対して『後ろに人が足りないから人をよこしてくれ』と要請できたはずです。全員、無線を所持しているのですから、すぐに配置すべきでした。
2点めは、安倍元首相のすぐそばにSPがいなかったことです。1発めの銃声が聞こえたあとも、安倍元首相は立っていました。おそらく当たっていなかったんでしょう。爆発音や銃声が聞こえたら、つねに2発めの可能性があります。何が起きたか把握できていなくても、弾丸か爆風が飛んでくる可能性があるわけですから、SPが直近にいて、安倍元首相に覆いかぶさるか、タックルで寝転がして、標的を小さくしなければいけません。この対処方法は基本なんですが、守られていませんでした」
この2つの点が守られていれば、今回の事件は防げたと松丸氏は話す。
「後ろに人が立っていれば、その人を貫通して安倍元首相を撃つなんてことはできませんし、抑止力になったはず。犯人は3mぐらいまで近づいて撃っていますが、バッグに手を入れた瞬間、犯人と安倍元首相の間に立ちはだかることだってできます。
安倍元首相は首と肩のあたりを撃たれていますが、安倍元首相を寝転がしていれば、被弾したとしても、致命傷にはならなかったと思います。なぜ、警備の基本を徹底できていなかったのか、悔やまれます」
どうすれば事件を防げたのか、検証が待たれる。
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