3日で2億5000万円を売り上げた実績を持つ名古屋の元カリスマキャバ嬢にして、2019年11月にキャバ嬢を引退後は、実業家に転身したエンリケ氏(34)。
そんな彼女の会社「エンリケ空間」が、2020年秋に新規事業としてスタートさせたのが「セルフエステ エンリケ」だ。小資本で開業できることを謳い文句に、「1年で全国100店舗を目指す」とエンリケ氏本人のSNSでフランチャイズを募集した。
その目論見どおり、彼女のフォロワーでもある30~40代の女性が、続々とフランチャイズ店舗のオーナーであるフランチャイジーに名乗りをあげ、加盟店は全国115店舗を突破したが……。
スタートから1年あまりが経過した今、加盟店の元オーナー6人が「1000万円を超える損害を被った」として、訴訟を起こすという。元オーナーたちの訴訟を担当する、NN赤坂溜池法律事務所の山口愛子弁護士が語る。
「2022年1月、エンリケ氏を訴えました。
まずフランチャイジーは、出店するにあたって加盟金200万円あまりを支払っています。加盟店募集のプレゼン資料では、『1件最短10分で2980円稼げます!』『月間で858万円以上可能!!』などと謳っているのですが、訴訟提起した原告らのうち、実際にはもっとも月の売り上げがいい方でも最高70万円程度でした」
実態は、最高でも当初のプレゼン資料の10分の1以下の売り上げしか得られなかったという。しかしこの数字は、フランチャイジーの怠慢などではない、と山口弁護士は続ける。
「しかも、その70万円の売り上げの半分以上は、途中で導入され、本部が積極的に売るよう通知していた、『一生コース』という15万円から30万円程度の高額なチケット販売からでした。それを購入したお客さんは、そのチケットを買えば該当のセルフエステのコースを以後ずっと受け続けられるというものです。
つまり、同じお客さんに1度売ったらそれきりのチケットになります。『一生コース』を売り続ければ経営は破綻します。店舗によっては『一生コース』を売ったとしても、売り上げ額は月たったの数万円から20~30万円程度でした。
このように、店舗の経営自体続けられるものでありませんから、『一生コース』を購入したお客さんも支払った金額が無駄になっていると言わざるを得ません。
実際、原告らのなかには、店舗を運営できなくなった後、『一生コース』を購入したお客様がエステを受けられなくなってしまったことに責任を感じ、自身で多額の返金に追われた方もいます」
プレゼン資料と店舗経営の実態の齟齬は、これだけではなかった。
「エンリケ氏のSNSで『あなたのお店を宣伝するので集客体制は万全』と謳っておきながら、エンリケ氏のInstagramでおこなわれたのは、24時間で投稿が消えるストーリーを各店舗あたり2回流したのみ。
エンリケ氏は各店舗に1度だけ来店したそうですが、滞在時間は1時間にも満たない短時間でした。加盟するだけさせておいて、アフターフォローなどもほとんどありません。
今回、訴えた全員が出店から半年足らずで、大赤字で閉店せざるを得なくなった状況です。我々としては、加盟者に対する当初の説明が、明らかに『情報提供義務違反』であると考えております」(山口弁護士)
情報提供義務違反とは、契約当事者間の情報や専門的知識に大きな差がある場合に、説明義務を怠る不法行為だ。
「フランチャイジーを募集する際は、調査に基づき、ある程度合理的な数字を示す必要があったのに、『エンリケ空間』はそれを怠っていたと考えています。たとえば、こうしたエステサロンなどの場合、顧客数などには地域差があってもおかしくありませんが、そうした指摘すらもありませんでした。
訴えを受け、2021年12月、訴訟に先立って東京地裁が仮差し押さえ命令を『エンリケ空間』に出しました。これは、『エンリケ空間』が被害者に対して損害賠償できるようにするためです。東京地裁も不法行為があったことをある程度認めている、と私は認識しています」
今回訴えを起こしているひとりで、2021年2月に出店し、8月に撤退を決めた金沢店(石川県)のオーナーAさんが語る。
「出店にあたっては、加盟金としてまず200万円を支払いました。さらに、店舗の内装費もこちら持ちだったので、初期投資だけで700万円近くかかりました。
6カ月の売り上げ総額? 数十万円です。リースしていた機械代などを含め、エンリケ氏を信じてしまったことで1200万円ほど損しました」
Aさんは、エンリケ空間の担当者に「売り上げも立たないし、このまま続けていくのは難しい」と話したところ、違約金300万円を支払うよう迫られた。「払えない」と伝えると、「違約金を支払わずに店舗を閉めるのは不可能です」と言われたことで、このままでは埒が明かないと弁護士を入れたという。
さらに、撤退したあともAさんたちを困らせているのが、エンリケ氏の夫S氏による嫌がらせだという。
「Sさんも17万人近いフォロワーがいるんですけど、彼は、Instagramのストーリーで、撤退した私たちのことを、自分で責任を取らない “ゴミ集団” という意味で、『ゴミレンジャイ』と呼んでバカにしているんです。
売り上げをあげられないのは、とにかく『私たちの無力さ、努力の足りなさ、ナメて始めた結果、クソみたいな奴ら』など、さんざんストーリーに上げられました。私個人は、Instagramのトップ画面から勝手にスクショされて、子供の顔をモザイクもかけずに、そのまま載せられたりもしました」
S氏がわざわざそんなことをする目的は、なんなのだろうか?
「私たちに訴えをやめさせる目的だけでなく、既存店へのプレッシャーもあると思います。“やめると、おまえらもこうなるよ?” みたいな。
いちばん腹立たしいのは、Sさんがやっていることをエンリケ氏はすべて知っているはずなのに、やめさせないことです。正直、始めるときは、テレビ番組などのメディアにも出てるエンリケ氏だから、契約したらそれっきりアフターフォローはなし、なんてことにはならないと思っていました。
でも、実際は投げっぱなし、ほったらかしでした。今はエンリケ氏に対して怒りしかありません」
また、施術に使う機械自体にも問題が多かったという。Aさん同様に訴訟を起こしているひとりで、わずか半年足らずで1000万円の赤字を抱えてしまったという函館店(北海道)のオーナーBさんが話を聞かせてくれた。
「そもそも店に納入された機械が、最初に受けていた説明と違うものだったんです。しょっちゅう不具合が起こるし、高価な特注品と聞かされていたのに、自分で調べてみると楽天や海外の通販サイトで二束三文で売っていることを知ったときは絶句しました……。
集客にしても、エンリケ氏や『エンリケ空間』本部のInstagramのストーリーに流れる広告は、“お客さんを募集する広告” ではなくて、“加盟店を募集する広告” でしかないんですよ。
機械も頻繁に不調を起こすし、これでお客様からお金はとれないなと。私は7カ月で撤退を決めましたが、最大の要因は、良心の呵責に耐えられなくなったことでした」
本誌は2021年3月末にエンリケ氏がAさんが担当する金沢店を訪れ、エステ機器の説明に同席する動画を入手した。会社の代表取締役として、フランチャイズを募集し機器のリースを斡旋する立場からすれば、機器については詳しいはずだが、エンリケ氏から発せられたのは意外な一言だった。
「あたしこれ初めて使うんですよ」
エステの目玉である「高級機器」を初めて使うことを告白したのだ。
フランチャイズビジネス案件に精通する牛島総合法律事務所の猿倉健司弁護士が語る。
「フランチャイズ本部がどのようなサポートをしてくれるのか、収支予想にどの程度の確実性があるのかなど、加盟者に対して契約時におこなわれた説明の内容によりますが、多くの加盟者において、このようなトラブルが多数起こっているのだとすれば、契約時の説明内容が十分でなかったことや、その後の対応が問題であった可能性はあります」
加盟店募集を開始後、1年足らずで6店舗から訴えを起こされている現状を、エンリケ氏本人はどう考えているのか? エンリケ氏本人と、FCセンター長が約100分間にわたって反論した。
「そもそも、訴えを起こしている6店舗のうち1店舗は、本部が業務に関する指示・指導をしたにもかかわらず、『自分のやり方でやりたいから』と従いませんでした。
また、話し合いやお客様への返金もなく、突然の閉店を強行されたことに対して、弊社としてはエンリケブランドを信じて通っていただいた消費者が一番の被害者だと考えています。
また、こうした行為は、業務委託契約書の条項に違反するものです。
先方の『情報提供義務違反』との主張に関してですが、通常のフランチャイズは直営の店舗を持っていることが多いのに対して、弊社のセルフエステ事業は(取材時点で)直営店舗を持っておりません。
そのため、募集時に示した数字の根拠に関しては、同業他社さんの数字を参考数値としたものであり、『月間売り上げ850万円以上も可能』という表記に関しては、絶えずお客様が来店した場合に理論上は可能、というだけのものです。
これらの数字の根拠は加盟希望者には伝えていますし、契約書でも説明しています。また、現段階で月間売り上げ200万円を超える店舗が複数ありますし、地方でも、東北の店舗さんで170万円近い売り上げを出しているところもあります。
『セルフエステ エンリケ』で成果を上げることが到底不可能という言い訳は、成り立たないと考えています」
エンリケ氏は、自身のフランチャイズビジネスや今回の訴えについて、どのように考えているのだろうか。本人が続ける。
「今回のセルフエステ事業が失敗だとは思っていません。これからも、このビジネスを続けていく予定です。
そもそも、短い期間で結果が出なかったからといって、私たちのせいにされるのは不本意ですし、売り上げが立つか立たないは、店舗側の努力によるところも大きいと思うんです。
仮に3カ月で結果が出ると思っていたなら、そこは意見の相違になってしまいますが、私自身、キャバ嬢時代は13年近く売れない期間がありましたし、結果って、そんなにすぐ出るものでもないと思っているので……。
訴えた6店舗のオーナーさんに対しては、喧嘩はしたくありませんでした。おそらく訴えを起こしている方々は、私がお金を持っているという前提で、『エンリケだったら賠償金を払うのではないか』と考えていると思うんです。
正直、私がお金を払えば世間に出ることなく、和解することもできたかもしれないですが、私としてはとうてい納得できないので、争うことを選びました」
エンリケ氏の夫S氏の暴走に関しては、どう考えているのか?
「彼は私のためを思って、自分が叩かれるという立場を取ってくれている、という言い方になるんですかね。これまでの投稿は私の指示ではありませんし、そういう性格の人なので……。
行きすぎた行為もあったと思いますし、実際、彼の行動が私のマイナスイメージになっていることも認識はしています。なんども言い争いをしていますし、そのなかで『離婚』という言葉が出たこともありますが、それでも、私にも止められないんです」
セルフエステの事業は継続していきたいと語るエンリケ氏。双方の主張は食い違うが、はたして、裁判ではどちらの主張が認められるのか――。
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