「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、犬の困った行動を直したほうがいいのか・直さなくてもいいのかの線引きに関するお話。吠えたり、飛びついたり、あま噛みをしたり、そんなに困らないけど、このままほうっておいていいの?と思う場面もあるでしょう。そんなときの判断材料をお伝えします(編集部)。
子育てというものは、思う通りにはなかなかいかないのが世の常。
人間も犬も同じです。子犬から好ましい行動をたくさん教え、さまざまなことに慣らしていっても、成長に従い子犬のときには見せなかった思いがけない行動を取るようになる犬もいます。
すでに第二次性徴期を迎えた犬を飼い始めた場合は、引き取る前にはわからなかった行動が、一緒に暮らし始めてしばらくして出てくることもあります。
もちろん明らかに困った行動は、ひとつひとつ改善に向かわせる必要がありますが、これって改善すべき問題なのか、それともそうでもないのか、判断に悩むこともあります。
そこで、今回はひとつひとつの行動が、改善すべき問題となる行動なのか、それを判断する基準をお話することとしましょう。
3つの視点から判断する
改善すべき問題かは、以下の3つの視点からその行動を見て判断します。
a.飼い主から見て問題となるか?
b.犬にとって問題なのか?
c.周囲にとって問題となるのか?
この3つの視点から見て、ひとつでもひっかかるのなら、それは改善すべき問題といえます。
逆にどれにも引っかからないのであれば、改善すべき問題とはいえない。
例えば、成長に伴いよく吠えるようになったある犬。
隣の家が犬の吠え声が微かに聞こえる程度離れていて、そこに住んでいる隣人もその犬の吠え声を全く気にしていない、飼い主も何ら犬の吠え声にストレスを感じることはない、犬自身もストレスを抱え込んでいる様子はなく獣医師からも健康そのもの元気でよろしいと言われている。
この犬の吠えは、先に挙げたa,b,c どれにも引っかからないわけですから、改善すべき問題ではない、といえるわけです。
3つの視点のひとつでも引っかかるのなら改善すべき
しかし先の犬が、現代における都市部に暮らしていればそうはいきません。cに必ずや、引っかかります。よって改善すべき問題となるわけです。
過去のクラスには、こうした犬も。
その犬は飼い主の姿が見えなくなると吠える犬でした。
飼い主はその吠えを問題には感じていませんでした。15年以上前の話ですので、まだ外飼いの犬もそれなりにいて周囲もその吠えに対して問題にしている様子もなかった。
ただその犬は肺に何かしらの疾患を抱えていて、肺に負担がかかるので獣医師からなるべく吠えさせないように、とアドバイスされたのです。そこでしつけ方教室に参加することとしたのです。
このケースは、飼い主にとっても周囲にとっても問題とはならないが、犬にとって改善すべき問題だったということです。
問題の改善のために
犬は体験を習慣化していきます。習慣を断ちたいのであれば、まずはその行動を体験させないことです。
飼い主の姿が見えなくなると吠える犬の場合は、まずはクレートトレーニングを行う。
クレートトレーニングができていれば、飼い主がその場からいなくなるときはクレートで待機させ飼い主がいなくなる姿を見せないようにする。
加えて、その行動を防げる行動や、好ましい行動を教える。
この場合は短時間のマテから始め、時間をかけて難易度を上げていき、最終的には飼い主がその場からいなくなっても戻ってくるまでおとなしく待機できるマテを教えていく。
「いなくなった飼い主は必ず戻ってきてほめてくれる」、そうした信頼関係をマテのトレーニングを通じて構築していくわけです。
あ、もちろん叱ることは改善には向かいませんよ。
例えば飼い主の姿が見えなくなると吠える犬を叱りに行ったら、吠えると飼い主が戻ってくることを教えているのと同じですからね。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(11才)ともにオス/ミックス。