「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
「ウチの犬、〇才なんですけど、今からしつけをしても遅くないですか?」、これは西川先生が飼い主さんからよく聞かれる質問。早いに越したことはないですが、ホントのところはどうなのでしょうか?(編集部)。
「タキミカ」って知っています?
タピオカ? いえいえ食べ物とかではありません。
呼び捨ては失礼なので、さんをつけましょう。
「タキミカ」さん。
ああ、あの方ね、とわかる人にはわかると思いますが、わからない方もおられれるかと思うので、ご紹介しましょう。
「タキミカ」さんは、本名「瀧島未香」さん。
ネット情報によると1931年生まれ。御年90才。
お仕事はというと、フィットネスインストラクター。
90才で、というのがすごいのですが、さらに驚かされるのはフィットネスを始めたのが65才のとき。それもダイエットが目的で、過去に運動部経験が、ないという事実。
なんの話をしたいかというと、何かを始めるのに年齢なんて関係ないってこと。
犬のしつけのトレーニングも同じなので。
理想は若齢からだけど……
何かを学ぶことの多くがそうですけど、年齢が若いうちから始めた方が、より早く、より深く、その何かを身につけられる。
家庭犬に必要なトレーニングには、人間社会で生活するうえで遭遇することやものに慣らす社会化が重要で、この社会化にはそれに適した時期、社会化期が存在し、その時期に社会化を始めないと後から取り返すのが困難となる。
社会化期は生後4カ月齢までと考えられているので、しつけ教室などに参加するのは、生後4カ月齢前からが理想となるわけです(理想的には生後3カ月齢前後から)。
でも、その時期を逸したからといって、トレーニングすることで何も身につかないわけではありません。
始めれば必ず身についてきます。
ただ、その速度と深度が違うだけです。
そしてもっと重要なのは、始めなければ何も変わらないということです。
脳も体も、年齢に関係なく鍛えられる
脳細胞の数は生まれたときに一番多く、日々増えることなく減っていく。20年以上前の、脳に関する本にはよくそう記されていました。
しかし現在では、海馬という部分の脳細胞は増えることが確認されていますし、脳の活動はネットワークが重要でネットワークは年齢に関係なく増やすことができるのです。
ネットワークは黙っていて増えるわけではありません。
使うことによって増えていく。新しい何かにトライすれば、新しいネットワークが形成されていくのです。
脳のみならず肉体も同様です。
皮膚や骨密度などとは異なり、筋肉はトレーニングをすれば年齢に関係なくその量を増やすことができ、機能も高めることができるのです。
しつけのトレーニングも始めれば必ずその効果は必ずみられる
犬のしつけは、人間の教育のようなものです。
何かの事情でちゃんとした教育を受けることができなかった方が、孫を持つほどの年齢になり学び直しをしている、そういった話が度々新聞などで紹介されています。
日本の場合は、小学校は受け入れてくれませんので、夜間中学に入り小学生のカリキュラムから学び直す。
結果的に大学院まで進学したおばあさんの記事も目にした覚えがあります。
犬も同様。私の教室では、生後4カ月齢を超えている場合は、どの年齢でも初級クラス、人間でいえば小学生のカリキュラムからのスタートとなります。
「今からでは遅くないですか?」
これ、よく質問されるのですが、どう答えているかはもうお分かりですよね。
10才まで、飼い主の指示でフセをすることがなかった犬が、フセの合図でフセができるようになる。
質問者の飼い犬の多くは7才未満。
やれば何かが変わる、やらなければ何も変わらない。そういうことです。
ところで、タキミカさんや、大学院までいったおばあさんの話など、何か新しいことにチャレンジする人たちのニュースって、女性ばかり。
男たちよ、負けるな!
って、「お前もな!」……ですか。う〜ん……。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(12才)ともにオス/ミックス。