「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
今回は、子犬のあま噛みに関するお話。子犬のころは、動くものに対して敏感に反応し、追いかけて捕まえようとする習性が顕著に見られます。ゆえにあま噛みが多いというわけですが、西川先生によると、これらの行為がスポーツに似ているそう。犬の習性とスポーツの関連を深堀りします(編集部)。
もうすぐですね、スポーツイベントの親玉みたいなアレの開幕が。
アレに限らず、なぜ人間はそれほどまでにスポーツをやりたがり、観戦したがるのか。
一説によると、太古の脳の記憶のようなものだそうで。
それは恐竜の時代に遡るとも。
脳は継ぎ足し構造。
そう称したのは、養老孟司先生だったでしょうか?
進化の過程で、古い脳の上に新しい部分を被せていく作り。
まぁ、建物でいえば古い場所はそのままに増築し続けているようなもの、ってことですか。
その古い脳部分に、獲物を捕まえるという欲求が残っていて、その欲求を満たすのがスポーツではなかろうかと。
太古まで遡らずとも、少し前の先祖の欲求も残っているのではと私は思うわけです。
人間の子どもは走るのが、追いかけっこが好き
少し前の先祖たちは、槍をもって獲物を追いかけ回していたわけで、アレの始まりは陸上競技からだったというのも、それと関係するかと。
現代においても、槍投げなんて競技がありますからね。
「走らないで!」
これ小学校低学年の子どもを持つ親御さんたちは、走ることで危険があるところでは、ことあるごとに口にしている。
「走らないで!」が口癖になってしまうということは、裏を返せば子どもたちはよく走りたがるということ。
鬼ごっこも大好きですね。他者を追いかけて捕まえる。これこそ、先祖が獲物を追いかけ回していた頃の欲求を遊びで満たしている。そうはいえないでしょうか?
動くものを追いかけ、噛みつこうとする
古い脳にある欲求を、幼い個体は遊びとして行う。
子犬も同様です。
ただ、犬たちと私たち人間とでは、その先祖の獲物の捕まえ方が異なる。
彼らは槍を持って獲物を追いかけ回すわけではなく、彼らは動く相手を自らの歯で仕留める。
その先祖たちの行動欲求を、子犬たちは遊びを通じて行おうとする。
そうなのですね、子犬たちは動くものを見ると追いかけて噛みつきたくなる。脳がそうなっているのです。
子犬を飼い始める。リビングで動いているのは、飼い主の手足と壁にかかっている時計の秒針ぐらい。
だとすれば、彼らは飼い主の動く手足を追いかけて、噛みつく。世にいうあま噛みのひとつは、これを指すわけです(ひとつはというのは、あま噛みには動かないものを噛み倒すというあま噛みもあるからです)。
欲求は上手に満たしてあげる
人間同様、第二次性徴期を迎えるまで歯の抜け変わりが続きます。その間子犬は獲物を仕留めるごっこ遊びをしたがります(人間の子どもたちの場合は鬼ごっこ遊びをよくするわけですが……)。
そしてその、第二次性徴期を乗り越える生後6~8カ月齢頃までは、その欲求を上手に満たしてあげることが不可欠。
上手に欲求を満たすとは、噛んでいいものを噛む体験をたくさんさせ、噛んでほしくないものを噛む体験をさせない。ということです。
「走らないで!」
とする親御さんは、危険のないところでは、思う存分走らせてあげるでしょう。
やんちゃな子ほど、スポーツなどをさせてその欲求を満たしてあげる。犬も同じ。やんちゃな子ほど(あま噛みに悩まされる犬ほど)、その欲求を満たしてあげる必要がある。
それが上手な子育ていうものです。
さて、動くものを追いかけて噛みつきたくなる欲求はどうやって満たせばいいのか?
それは過去のコラムの「引っ張りっこ」の項をご覧……
あらら、改めて振り返って、大発見。
「引っ張りっこ」の話を過去にしていたかと思っていたら、なんとしていなかった。
ということで、次回のテーマは「引っ張りっこ」とあいなります。
う〜ん、ところで、今回はコロナ禍でのアレ。果たして盛り上がるのでしょうか?
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(16才)、鉄三郎くん(11才)ともにオス/ミックス。