データやテクノロジーが野球にもたらした変革に迫る「教えて IT野球」。第4回は今シーズン横浜DeNAに電撃加入し、日本球界に大きな衝撃をもたらしているトレバー・バウアー投手(32)に聞いた。米国時代から理論派として知られるサイ・ヤング賞右腕が、科学的思考の原点やデータ活用に対する見解を語った。
-自身のプレーにテクノロジー、あるいはそれに類するものを自覚的に取り入れた最初の経験は。
「中学3年の時に受けた物理の授業が最初のきっかけだ。例えばどのように物体は飛ぶのかといったメカニズムを習うと思うが、そうした原理は野球にも生かせるのではないかと考えた。次第に投球フォームの形成にも活用するようになった」
-具体的にどのような内容で、投球にどのような変化をもたらしたか。
「右投げである私の投球フォームの場合は、捕手の方向に踏み込んだ左脚で体重移動をストップさせることになる。止めたことで生じるエネルギーが腕に伝達され、それがボールのスピードに変わる。体重移動が速いほど、そして体重を左脚でしっかり止めることが、腕やボールに力が伝達されることにつながる。そんなイメージを物理から学んだ。そうしたイメージを明確に持って練習したことで、球速が16カ月間で14マイル(約23キロ)速くなった実体験がある」
-米国時代の発言を読むと、ハイスピードカメラ「エッジャートロニック」がバウアー投手にとって重要なツールのようだ。
「投球フォームや球の握り方、スピンレート(回転数)を上げるための分析など、野球に関するありとあらゆる面で活用した。ウエートトレーニングの際にどの筋肉が最初に使われているのかといった、それまで知り得なかったことも分かった。野球への解像度が上がり、結果的にパフォーマンスに生きていると思う」
-遠投と、イニング間の投球練習の初球にマウンド後方から助走をつけて投げるルーティンが印象的だ。理論上の意図は。
「遠投は7歳か8歳の頃から続けていて、投手に必要な要素がいくつも詰まったいい練習だと思っている。球速向上の効果があれば、遠ければ遠いほど狙った所に投げるのは難しいからコントロールを身につけることにもなる。また、試合での1球目も100球目も同じ速さと質のボールを投げることを可能にする肩の体力のようなものが高まる」
「助走をつけた投球練習は、自分の体に今の自分の能力で最速のボールを投げることを思い出させる意図がある。球速を高めるためにいい方法だと思っている」
-セイバーメトリクス(データを統計学的に分析してチーム戦略などに活用する手法)を用いた選手評価について考えをうかがいたい。
「選手育成のための観点と、チームが勝利を目指すための観点があると思う。育成において考えると、例えば米国のマイナーリーグで(打線の援護点によって影響される)勝利数が多いという理由だけでいい投手という評価を受けてしまうと、むしろ不利益になる選手がたくさん現れてしまうと思う。選手自身がコントロールできない要素の影響によって不正確な高い評価、あるいは低い評価を受けることを回避し、選手の本当の能力を見極めるために適切なデータを参照することは重要だ」
-チームが勝利を目指すという観点では。
「例えばあるシーズンに3割の打率を残した打者がいたとする。ただ、データを詳しく分析すると運の良さに大きく影響された3割だと分かった。そうなると、その選手を本当に3割打者として見ていいのか、来季もレギュラー起用するべきなのかという観点が生まれる。選手育成とチーム編成という違いはあるが、どちらにおいても重要だと考えている」
-ベイスターズのデータやテクノロジーの活用についてはどう感じているか。
「チームとして勝利のためにデータをできるだけ活用する方針があると思うが、それは正しいと考える。選手個人となると、正直なところ言葉の問題もあってまだ評価できるほどのことまでは分かっていない」
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