月に1回程度、tvkのナイター中継を担当するアナウンサーが、日々の出来事やエピソードをコラムでお伝えします。今回は根岸佑輔アナウンサー。
今シーズンの初実況は4月19日からのホームゲーム。去年まで8年連続で負け越しているタイガースが相手で、特に鬼門となっていた横浜スタジアムでの一戦だっただけに心配でしたが、杞憂(きゆう)に終わりました。
何と結果は同一カード3連勝! コロナ陽性判定を受けた牧、戸柱、倉本、山下が2戦目から復帰し、3戦目からは楠本が戻った中で、勝率5割に復帰しました。その直後の広島戦で3タテを食らったものの、「ここから本当の『横浜反撃』が始まるんだ」と思わせてくれる3連戦だったと確かに思います。
私が実況を担当したのは、第1戦と第3戦。その両方でお立ち台に上がったのは、10年ぶりに古巣復帰したチーム最年長の藤田一也選手でした。実は、私がひそかに恩人と思っている1人であります。
右も左も分からず
tvk入社当時、右も左も分からず、野球中継もド素人だった私。ファンとして野球を楽しむことと、伝える立場で野球に接することのギャップに戸惑い、数えきれないくらいの壁にぶち当たりました。
今のように実況を任されることはなく、当時はリポーターの仕事がメイン。タイムリー談話などを紹介するだけでなく、試合前に選手に声をかけ、いかに「地元局だからこそ伝えられるエピソード」を聞き出せるかが勝負でした。
しかし、当時は知識が浅く、全てにおいて未熟だった私。選手に声をかけても、ほぼ会話が成立しない「しどろもどろ」な取材しかできませんでした。
頭の中で描写練習
そんな時に立ち止まって未熟な質問の意図をくもうと、逆に気遣いながら対応をしてくださったのが、当時現役だった三浦大輔監督と、藤田選手でした。2人の慈悲深さがなければ、精神的に追い詰められて続けることができず、今の自分はなかったように思います。
特に野手は毎日のように試合に出るので、藤田さんからは数え切れないほどのコメントをいただきました。拙い質問に嫌な顔一つ見せず、答えてくれたあの時の恩は一生忘れません。
私に野球を教えてくれていた弊社の先輩から「試合も面白いけどシートノックが面白いんだ。特に23番の藤田をよく見ていろ。あれがプロのトップレベルの守備だ」と言われ、その日から藤田選手のノックを食い入るように見ていました。それに合わせて頭の中で実況の描写練習をすることが自分の日課になりました。
10年の時が流れ
あれから10年の時が流れ、古巣ベイスターズに復帰した藤田選手。まだまだ勉強中ですが、私もtvkのスポーツアナとして年間多くの実況を担当させていただけるようになりました。
今はコロナ禍で直接話をする機会がほぼなく、あの時のお礼を言う機会もありません。先日の3連戦、第1戦の藤田選手の代打同点タイムリー。そして第3戦の代打勝ち越しタイムリー。まだ言えていないお礼と、感謝の気持ちを乗せて実況しました。
楽天では13年に日本一を経験している藤田選手。tvkのニュース番組のインタビューで「選手一人一人が優勝という目標に本気で向かわないと、優勝はできない。皆を優勝という目標に向けるための役に立ちたい」と話していました。
今年のミッション
後輩へのアドバイス、練習やベンチでの姿、何げない声掛け…。藤田選手には豊富な経験を還元することも期待されていますが、それ以上に求められることについて本人が口にしていました。
「一緒に若い選手と切磋琢磨(せっさたくま)して、いいライバルになっていきたい」。今年40歳になる内野手の活躍が、ベイスターズにどんな化学反応を起こすのか。それを敏感に感じ取り、逃すことなく言葉にして、放送に乗せていくことは、私の今年のミッションの一つだと感じています。
シーズンはまだ始まったばかり。開局50周年の年に、ベイスターズの24年ぶりの優勝に立ち会えることを信じ、ファンの皆さんと同じ熱量で今後も心を込めた放送をお届けしていきます!
外部リンク