都心を走る地下鉄「大江戸線」の走行音がうるさいと話題になっている。理由を探ると、同線の独特の構造にコロナ禍ならではの事情が重なって……。
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ゴォォーー、キィィーー。
激しい騒音と笛のような甲高い音が鳴り響き、そのたびに騒音計の値が跳ね上がる。車内アナウンスが聞こえない時もある。
コロナ禍の今、「うるさい」と話題の地下鉄がある。首都圏の足として東京の地下を「6の字」に走る大江戸線だ。
<もはや乗客に健康被害が出るレベルの騒音>
SNS上にはこんな投稿があふれている。
■感染防止対策で窓開け
この大江戸線、東京都交通局が運営する地下鉄の一つで全長40.7キロ。全線開通は2000年と都営地下鉄の中では最も新しい。そんな新しい地下鉄なのに、走行時の騒音が尋常ではないのだ。
一体どれくらいうるさいのか。スマートフォンに騒音計アプリをダウンロードし測ってみた。1周したところ「騒々しい工場内」レベルの90デシベルを何度も超えた。
都交通局によれば、大江戸線の騒音への「意見・要望」は、新型コロナウイルスの感染防止対策として車内の窓開けを始めた3月以降、増えたという。だが、他の地下鉄も同様に窓を開けているが、音はそれほど気にならない。東京メトロの走行時の騒音を測ると、有楽町線はほぼ全線で「騒々しい事務所の中」に相当する70デシベル前後。東京メトロも、
「騒音そのものについての苦情はありません」(広報部)
■カーブの半径が小さい
なぜ、大江戸線だけうるさいのか。『地下鉄の駅はものすごい』などの著書がある、鉄道ジャーナリストの渡部史絵(わたなべしえ)さんはこう説明する。
「最大の要因は急カーブが多いためです」
渡部さんによれば、大江戸線は車両を小型化したミニ地下鉄なので他の地下鉄に比べカーブの半径が小さいという。例えば、同じ都営地下鉄の浅草線、三田線、新宿線の最小曲線半径が160メートルなのに対し、大江戸線の本線は100メートル。半径が短いほど小さな円となるのでカーブがきつくなり、半径100メートルだと「直角カーブ」のようになる。この半径100~110メートルの「急カーブ」が、大江戸線には「新宿西口~東新宿」「牛込神楽坂~春日」「勝どき~汐留」「大門~赤羽橋」「麻布十番~青山一丁目」「国立競技場~代々木」など計9カ所あるという。
「急カーブで生じるきしり音が主たる原因ですが、トンネルが小さいことで、よりうるさく感じてしまうのだと思います。また、大江戸線は車両とトンネルの隙間が非常に狭いです。これが災いして、きしり音やその他の音がトンネル壁ではね返りコロナ禍により開けてある窓から車内に入って、騒音として乗客の苦情を生んでいるのではないかと思われます」(渡部さん)
実際、今回の測定で最も騒音が激しかったのは、急カーブが続く「大門~赤羽橋」間で96デシベルとなった。
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■後から建設された路線
とは言え、大江戸線にカーブが多くなったのは訳がある。
「大江戸線は後から建設された地下鉄ですので、首都高の基礎や既存の駅などを避けながら建設しなければいけない施工上の制約がありました。そのため、カーブが多い路線とならざるを得ませんでした」(都交通局)
都は騒音対策として、車輪とレールの摩擦を減らす摩擦調整剤をレール上に塗るなど毎日至る所で様々な取り組みを行っていると理解を求める。しかし、車内の窓開けは「コロナが完全に収束するまで続けます」と都交通局は言う。コロナよ、早く収まってくれ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年11月2日号
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