「業務連絡は異常にありますね。3人だけなんで、あーだこーだと。『明日よろしく』『はい、わかりました』って。ミタゾノの格好でこうやって」
そう言って、スマートフォンを操作するふりをして見せた。
ドラマ撮影の休憩中など、家政夫役の姿のままであっても時間があればLINEグループを開く。
確認しては返信する。自分からの"報連相"もこまめに。そんな日常にもすっかり慣れた。
会社を立ち上げて1年。
他社とのミーティングも精力的に行ってきた。職種は様々で、話す内容も多岐にわたる。
それでも、最初の顔合わせで聞くことは一緒だ。
TOKIOってどういうイメージでしたか?
相手が答えてくれる。なるほどと納得し、実感する。
自分たちのやってきたことが残っているのだと。そして、こう思う。
「感謝していますね。TOKIOという名前にやっぱり」
すでにフマキラーのCM制作にクリエイターとして参加。丸亀製麺とは共創型パートナーシップを締結して商品開発などを行い、福島県庁内には「TOKIO課」も設置した。もちろんタレントとしての仕事もある。
それらと並行して進めていた「Make with TOKIO! ⼀緒につくろうプロジェクト」では、パートナー企業を選ぶのに半年以上かけた。
多数の応募の中からひとつに絞るのは大変な作業。中途半端な気持ちでは相手に失礼だ。
丁寧に、誠実に。だから時間がかかった。
3人で会う機会も増えた。番組収録の合間に楽屋に集まることもあれば、オフィスで会議を開くこともある。意見を出し合い、すり合わせていく。
自然と、互いのキャラクターに触れることになる。
「うちの国分は非常に細かく物事に入って、そしてなぜこれが動いているのかというのをきちっと突き止める人ですね。そこに自分の想いを入れて、とても熱い人です。あの人はすごく、職人肌なんですよ」
3人だけのLINEグループは『かぶ』と名付けられた。発案者は国分だ。
「株式会社だから『かぶ』でいいよねって(笑)」
城島について聞くと、即答で返ってきた。
「何もないっすね!1+1=2の男です」
直後、松岡の声のトーンがぐんと上がる。
松岡が城島をいじるシーンはテレビなどでよく見るが、どこか安心感があるのは、リスペクトがにじみ出ているからなのだろう。
そんなことを思いながら質問を続けると、「いないから言いますけど」と切り出した。
「『城島茂』って言っときゃまず間違いないですね。ええ。やっぱりお茶の間への浸透ぶりってすごいんですよ。だから城島茂を持ってるのは、ちょっとうちの武器ではあるんです」
3人のバランス、関係性が心地いいと松岡はうなずく。言いたいことを言えて、受け止めてくれる。自分も受け止めてあげられる。
仲間への想いは、そのままTOKIOへの想いでもある。
「なんでかっていうとね、別に先代をどうこう言うわけじゃなくて、亡くなると形見になっちゃうのよ。TOKIOっていう名前が。あの人が作ってくれた最高の、俺たちの形見に。それをなくすのはなんか、ね。だから名前なくしたくねえなって思っちゃったんだよね」
それは名前への愛着かと投げかけると、松岡は優しく否定する。
「だって俺、TOKIOに入ったのが13歳だから。32年前。45年のうち32年間TOKIOをやっているわけだから、もう『Masahiro TOKIO Matsuoka』みたいな(笑)」
もっと自然で、当たり前にある、名前の一部のようなものだという。
会社を立ち上げ、芸能の世界とは関係のないところで生きている人たちとも接するようになった。バンドのイメージが強いと言われる。長年続くレギュラー番組の話をされることも多い。
誰もがTOKIOを知っている。
恩師に導かれ、信じてやってきたことが認められた感覚があった。誇らしかった。
「このTOKIOという5文字が、やっぱり5人の時も4人の時も今の3人の時も、いろんなTOKIOがあって。でもやっぱりTOKIOなんだな自分はっていうのがあるから。なんだったら墓に『TOKIO松岡』って彫ろうかなっていうぐらい」
城島と国分に、その想いは共有していない。
「別にしなくてもいいよ、そんなこと。それぞれだから。まあでも会社立ち上げて、やってるってことは一緒でしょ」
わざわざ伝えなくても、お互いわかっているから──。
照れ笑いではない、穏やかで少しうれしそうな表情を松岡は浮かべていた。
交通手段・宿泊の予約サポートや、目的地の手配まで行う「ソクたび」というサービスを展開するも、新型コロナウイルス禍でダメージを受けた。
現地に行けないのなら、おうちで旅気分を感じてもらおうと始めたのが「おうちソクたび」。ご当地グルメやドリンクなどが詰まった1箱が自宅に届き、旅行気分を味わえる。
3人は、Orangeとの共通点を見出していた。
「今までやってこられた仕事を変えざるを得なくなった時に、ネガティブじゃなくて『しょうがないもんね』と。旅行に関してはストップがかかっている、じゃあ他にできることはなんだろうってプラスに持っていって、逆風を追い風に変えてしまうような」
「そういうやり方が我々でいう、例えばじゃあバンドやっています、何やっています、できなくなりました。でも、こういった形の音楽活動はできるよね、とか」
「3人になってもこういうふうに株式会社TOKIOを作っていこうよ、と。似ていると言うとおこがましいんですけど、職種は違えどラインは一緒だと思うんですよね」
時間をかけて選んだパートナー。そうして生まれたつながりを、松岡は特に大事にしたいという。「これは株式会社TOKIOじゃなくて僕の意見です」と強調すると、こう続けた。
「恋愛と不動産とビジネスはご縁なので。もしかしたら他の人との方がもっとすごいことになっていたかもしれない。でもきっと、Orangeさんと組ませてもらって楽しいことをやっている方がいいんだと思うんです。(他の会社とは)ご縁がなかったから。そういうことなんです」
だからこそ「あっちにしておけば…」と後悔することもなければ、「こっちで良かったね」と自身の選択に安堵することもない。
「株式会社TOKIOとOrangeさんが初めて組むわけだから。お見合いして、恋愛しますかってことでしょ。もめることもあるかもしれない。いいんですよ。それでお互いに知っていって、補い合ってやっていければ。時間を重ねれば重ねるほどもっといろんな欲が出てきて、こうしたいというのが出てくるといいかな」
このパートナーシップがどうなっていくのか。その過程に何があっても丸ごと楽しもうとしている。
打ち合わせを重ね、実際に現地の職人の元へ取材にも訪れた。
「彼はお散歩番組でいろんなものに触れているからか、そういうのが大好きなんですよ。職人さんの心意気とか持っているプライドとか、そして何よりも伝統ですよね」
松岡は言う。これは3人に共通することだが、自分たちも長くものづくりに携わってきたからこそ、喜びも大変さもわかっている。
その一つひとつが愛情を注いだ子どものような存在なのだと、自然に敬意を払うことができる。
「決して安いものではないんですね。職人さんが作るものですから。でもそれを、なんとかして新しい形で、もっとわかりやすくみんなに提供することはできないか。そこで今回、国分が動く」
まだまだ苦しい時期だからこそ、手を取り合い、コラボという形で何かできれば──。
偽善ではなく、自分たちが関わることで新しい道が開けるのではないか。それを模索するのが協業だと松岡は力説する。
昨年9月に丸亀製麺と『トマたまカレーうどん』を共同開発。松岡が考えたメニューは大きな反響を呼び、今年4月には限定復活した。
頭の中にあるイメージ、いつも家で作っている味をそのまま表現したという。
「この発想は我々にはないですね」
試作品を口にした先方の担当者が驚く。
「いや、あるわけないですよ。僕、素人だもん」
プロが思いつかないこと、もしくは選ばないであろう組み合わせがあったとしても、そこにもしっかり価値がある。
「音楽も芝居も一緒なんです。経験がある人間より、知らないヤツにやらせたら『すんげーじゃん、その感性』っていうことになるわけですよ」
好きという気持ちがアイディアを生み、自身が誰より楽しむことで周りもノってくる。その相乗効果が、気づいたらビジネスになっている。
ビジネスについて自分が深く語っても仕方がないというスタンス。「そういうのは経営者の方それぞれの頭の中におありになるので」。
だから、人があっと驚くような、楽しくなるような「遊び心」という視点でアプローチする。
インタビューの翌日、福島県西郷村に「TOKIO-BA(トキオバ)」を設けることが発表された。約8万平方メートルの広大なフィールドを購入。活用方法を全国から募り、アイディアを形にしていくという。
公式サイトにつづられたTOKIO-BAへの想いは、こんな一節で締められている。
みなさんもTOKIOになりませんか?
「うちの国分がよく言うんですけど」と松岡がこんな話をしてくれた。
「TOKIOと一緒にお仕事をしたら、実はあなたもうTOKIOなんですよ、って。昔からよくコンサートでも言っていて、『何言ってんだ』と思っていたんですけど(笑)。会社を立ち上げた今は本当にわかる。あんたすごいよって」
多くの人が、壮大なスケールに驚かされながらも思ったのではないか。
TOKIOらしいな──
「これからいろいろと発表されると思います。多分、すごい近い将来。『言ってよー!』『なんだよー!』ってなる気がします」
その言葉でインタビューは終わった。松岡の"予告"は、TOKIO-BAのことだったのだろうか。
考えながら、彼の遊び心の一端に触れているのだと気づく。
時に大声で笑い、時に真剣な口調で言葉を紡いだ松岡が、この時はイタズラっぽい表情をこちらに向けていたのを思い出した。