脚本・鈴木おさむ、主演・田中圭のドラマ「先生を消す方程式。」(毎週土曜夜11:00-11:30、テレビ朝日系)。同作チームが満を持して贈るフライングドラマ「頼田朝日の方程式。-最凶の授業-」(毎週土曜夜11:35-、ABEMAプレミアムで配信)に今、熱い注目が集まっている。ドラマ史上初、“スピンオフとは一線を画す新ジャンル”というフライングドラマ。その魅力とは?
本編は予測のつかない学園サスペンス
「先生を消す方程式」(以下、「本編」)とフライングドラマ「頼田朝日の方程式-」は、どちらも鈴木おさむによるオリジナル脚本作品。本編は、都内の進学校“帝千学園”を舞台に、田中演じる謎めいた教師・義澤経男(よしざわ・つねお)が生徒とバトルを繰り広げる学園サスペンスだ。
校内でも特に成績優秀な者が集められている3年D組は、これまで担任になった教師が全員、短期間でメンタルをむしばまれ、退職していた。このクラスには大人を追い詰め、壊れていく姿をゲームのように楽しむ生徒が集まっており、完全犯罪に近い形で、自らの手を汚すことなく担任をつぶしていた。
そんな闇深き高偏差値クラスに、田中演じる新たな担任・義澤がやって来る。
生徒に意地悪な発言や質問をされても、物理的に攻撃されてけがをしてもなぜかニコニコしている義澤。生徒たちのプライベートな情報をなぜか熟知し、“笑顔”で指導していく――。
この先のストーリーがどう展開していくのか予想のつかない本編。10月31日に初回が放送されると、視聴者からは「30分ドラマなのに情報が多すぎてヤバい」「出演者全員が不気味に見えてきた…」といった戦りつの声が上がり、Twitterでは「#先生を消す方程式」がトレンド入りする反響を呼んだ。
フライングドラマ、主人公は“副担任”
そんな本編のABEMA見逃し配信と同時に配信開始されたのが、フライングドラマの「頼田朝日の方程式。―」。こちらは3年D組の副担任・頼田朝日(山田裕貴)が主人公を務める。
本編で徐々に明らかになっていく頼田朝日の狂気性に焦点を当て、“本編最終回後の世界”を先行(=フライング)して描く。
「本編1話で義澤先生が生徒に授業を行うのですが、それを見た朝日がその日の学校終わりに『今日の(義澤先生の)授業、最悪だったよね』って言いながら一人で動画を撮っているんです。その動画を、本編の最終話が終わったあとの世界で生徒たちが見ている、というのがフライングドラマの世界です」。主演の山田は、フライングドラマのストーリーをそう説明する。
表向きは義澤を支える副担任の朝日。だが、本編1話で実は朝日こそが生徒たちを操っていた“悪の権化”だったことがわかる。フライングドラマでは、そんな朝日の本音が爆発する。
「あ~~~、うずく、うずくな~~~!」「一番大切なのは権力!!努力は無力!はい繰り返して!!努力は無力!!」。教卓でひとり、狂気丸出しで倫理観が抜け落ちた主張を叫びまくる朝日。
その動画を見ながら、本編の結末をすべて知っている生徒たちが「朝日先生、“あの日”、こんなことを撮影してたんだ」「朝日先生は気づいてたわけでしょ?義澤先生の“目的”に…」と、本編の先の展開を少しずつ“フライング”して見せていく。
視聴者にあえて結末を“チラ見せ”
本編にも登場するキャラクターが主役となって制作されるドラマは“スピンオフ”と呼ばれ、以前からファンに愛されてきた。ドラマ「踊る大捜査線」シリーズの映画「交渉人 真下正義」「容疑者 室井慎次」(ともに2005年)などはその好例だ。
かつては映画や特番として作られたこうしたスピンオフ作品も、ここ数年で動画サイトが定着したことによって発表の場が確保され、より積極的に制作されるようになっている。
こうしたスピンオフ作品の多くは、本編を楽しんだ視聴者への“プラスアルファのお楽しみ”といった位置づけだ。そのため、放送中の本編よりも未来の世界が描かれることはない。
そのタブーに斬り込んだのが「頼田朝日の方程式。―」というわけだ。まだ結末を知らない視聴者に、あえて未来をチラ見せし、考察を促す。
主演の山田も「僕の中では“本編8話+フライングドラマ8話”の全16話のドラマだと思って挑んでいます」と話す通り、フライングドラマは本編と相互に影響し合っている。
本編に仕掛けられた謎のヒントをフライングドラマが提供し、フライングドラマで匂わせる結末が本編の新たな謎をあぶりだす――緻密な計算のもと、本編とフライングドラマが互いを補完し、ストーリーを盛り上げていく。
脚本・鈴木おさむ氏は「見ておくと、今後本編でバラされる秘密などがかなりフライングで出てきてしまうドラマです」「何気ない台詞一個一個を聞き逃さないで欲しいです」と、フライングドラマの見どころを説明する。
ワンカット、20ページの一人芝居
「頼田朝日の方程式。―」は、撮影手法もぶっ飛んでいる。
朝日が一人で授業動画を撮影するという設定のため、朝日役・山田は20ページに及ぶセリフをたった一人で演じる。それも、途中でカメラを止めることなくワンカットで撮影しているという。
初めて台本を渡された時は「笑って、『嘘だろ!』って言って、地面に倒れこみました」という山田。「ドラマでこんなの見たことないです。今日の撮影で、台本20ページをひとりで喋ってるんですよ。やれます?絶対やれないですよね?それを1週間前に渡されて…できます?“絶対にできないこと”を僕はやっています!(笑)」と悲鳴を上げながらも撮影に挑む。
フライングドラマ内で繰り広げられる朝日の主張がまた、とんでもなく強烈だ。
山田自身が「地上波ではこのフライングドラマは流せない(笑)。それほど良くない教えを繰り広げています。朝日の頭がおかしいので、完全に。それを見てもらうだけでも楽しいと思います」と語るほど、正義の教師・義澤とは180°異なる“授業”ぶりなのだ。
“狂気”は鈴木おさむドラマの専売特許。「奪い愛」(テレビ朝日系、ABEMA)シリーズの水野美紀や小池徹平、「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日系)やそのスピンオフ作品「L 礼香の真実」(ABEMA)の田中みな実など、数々の狂気じみたキャラクターがドラマを盛り上げてきた。
「頼田朝日の方程式。―」では山田が「頼田朝日という役は、今までの山田史上一番心が汚いやつにしてやろう、と思いました。だから、『頼田朝日の方程式。』の頼田をみて、『絶対こんなやつになりたくない』って思ってほしいです」と、覚悟をもって“ヒール”に徹する。
数々の話題ドラマを手掛けてきた鈴木おさむ氏ならではの新しい発想と、かつてないほど過酷な撮影に必死で挑む山田。第1話を視聴したファンからはさっそく「すごい。サイコ」「あれは確かに地上波では流せない!次回も楽しみ!」の声が上がる。
まったく趣の違う“新しさ”が生み出す新境地“フライングドラマ”の展開にも注目だ。